ボストン コンサルティング グループ(BCG)と、その戦略シンクタンクであるBCG研究所は、世界の製造業1,000社を対象とした調査を基に、AIを活用した「未来型工場」の導入で製造業がどう変わるか、その将来像を示した。
AI活用型工場の実現性が高まる
未来型工場とは、AIを活用して自動化を進め、生産体制全体を包括的に再設計することで、エネルギー効率、原材料使用量、歩留まり、生産効率などを多面的・同時に改善した工場だ(図表1)。
その実現性は、次の3つの技術革新により高まっている。
- エージェント型システムの台頭により、従来は困難だった生産システム全体の再設計ができるようになったこと
- AIが自律制御システムや予知保全をすでに実現し、フィジカルAIがロボットの訓練時間や自動化可能な範囲を改善していること
- コンピューティング能力の向上により、低コストで高度な分析やシミュレーションを行えるようになったこと
未来型工場へと移行した場合、最大60%の生産性向上が見込まれる。今後工場の立地選択の鍵は、もはや労働コストや物流コストではなく、いかにその拠点をAI活用型工場へと変革し、高い生産性を実現できるかだ。地政学的な不確実性が高まり、サプライチェーンの不安定性が構造的リスクとなる中で、「地産地消型」の生産体制でレジリエンスを高めようとする製造業にとって、未来型工場への変革はますます重要となっている。
高コスト国では、未来型工場が海外移転より競争力の高い選択肢に
人件費や原材料費などのコストが高い国においてAIを活用した未来型工場を導入することは、工場の海外移転よりも競争力が高い選択肢となる可能性がある。たとえば、ドイツ市場への供給を前提に、食品加工をドイツ国内で行った場合と中国で行った場合を比較すると、現状では生産コストにほとんど違いはないが、どちらの拠点でも未来型工場へと移行した場合、ドイツ国内の生産コストは中国に比べ14ポイント優位となり、大幅に競争力が高くなる(図表2)。
ただし、未来型工場の恩恵は地域や業界により異なる。エネルギーコスト、人件費など地域ごとのコスト構造に加え、自動化の可能性や物流コスト比率など、業界特性も大きく影響する。ドイツと中国の例をみると、バッテリーセル工場の場合、現状の生産コストは25ポイントの差で中国が優位で、未来型工場への移行によってその差は15ポイントに縮まるが、食品加工と異なり中国の優位は維持されると予想している。
未来型工場への準備状況で日本は3位
コストに加え、人材の確保やデジタルインフラの整備状況も、未来型工場を導入するか否かの判断の重要な要素となる。調査では、企業の87%が未来型工場の導入に際し人材・スキルの確保がより重要になると回答し、69%がデジタルインフラの重要性が高まると答えた。
未来型工場導入に向けた各国の準備度合いについて、スキルとデジタルインフラの整備状況を評価したところ、日本は、強固な通信ネットワークと高技能人材を強みに3位に位置付けられている(図表3)。
日本については、自動車、産業機械、電機製品などの分野において中国や南アジア・東南アジア諸国との競争激化に直面するなか、未来型工場が競争力低下を反転させるきっかけになると分析している。たとえば、自動車部品を欧州市場に供給する場合、現状では中国との生産コストに7ポイントの差があるが、未来型工場の導入によりその差が1ポイントに縮まると推測される(図表4)。
また、未来型工場への移行が進まなければ、西欧では約1.03兆ドル、米国では4,400億ドル規模の製造価値が国外に移るリスクがあると分析している。レポートの共著者で、BCGケルン・オフィスのマネージング・ディレクター&シニア・パートナー、ダニエル・キュッパーは次のように述べている。「製造業は新たな時代に突入している。もはや競争力は、固定的なコスト比較ではなく、生産体制全体をどれだけ効果的に再設計できるかによって決まる。AIを活用した未来型工場は、企業の価値創出のあり方、そして『どこで生産するか』の意思決定そのものを根本から変えつつある」