- 自動化の経済性が劇的に改善、投資回収期間は5〜7年から1〜3年へ短縮
- ロボット前提の「止まらない」工場が優位性のカギ
- 成否を分けるのはベンダー対応、組織設計、セキュリティ確保
経営リーダーのなかで、自動化を一度も検討したことがない、あるいはまだ実行に移していないという人は、近年どれほどフィジカルAIをめぐる状況が変化したかを過小評価しているかもしれない。フィジカルAIの進歩により、ロボティクスは新たな時代に突入しており、あらゆる産業で自動化できる領域が広がっている。
自動化可能な作業範囲は50%拡大
ハードウェアとAIの両方が改善したことで、フィジカルAIは柔軟性と能力を急速に高めている。
- 動きが大きすぎる、またはコストが高すぎるとして、かつては自動化が難しいとされていた作業が今や自動化できるようになった
- 多くのロボットは仮想空間・デジタル環境で事前に訓練できるため、現場に設置される前に作業の学習を済ませることができる
- これにより導入が加速し、業務を混乱させるうえに高いコストがかかる現場での訓練が不要になる
- 初期投資額は急速に減少している。従来型ロボティクスではコストの約75%がシステム統合・設定・エンジニアリングに費やされていたが、最新世代のフィジカルAIはそれらのコストを半分以上削減できる
これらの変化により、従来型ロボティクスと比べ、自動化可能な作業範囲が50%拡大するなど、フィジカルAIは自動化に大きなインパクトをもたらしている(図表)。
フィジカルAIから価値を引き出すための5つのアクション
最新の画像認識技術による知覚能力など急速に向上している分野がある一方、人間レベルの器用さや物理的な推論といった領域は、ロボットにとって依然難しい課題のままだ。チャンスは、フィジカルAIがいますぐ価値を発揮できる領域に集中することにある。すぐに実行できる5つのアクションは次の通りだ。
①次世代フィジカルAIを念頭に置き、非効率な業務を評価する
経営リーダーは、フィジカルAIがどこで進歩しているか、まだ発展途上の領域はどこかを把握しておく必要がある。何でもこなせる万能型ヒューマノイドロボットの実現はまだ遠い未来の話だ。フィジカルAIの発展段階は次の4つで評価できる。
- 視覚認識(Visual Perception) 段階:高度な画像認識機能を搭載し、物体や位置を認識することで、これまで自動化が難しかった環境にも対応できる。
- 巧みな操作(Dexterous Manipulation)段階 : 認識・理解、そして力加減を組み合わせ、形状が定まらない、または変形した物体を扱えるようになることで、複雑な自動化を実現する。現在利用可能なモデルには、特定のタスクへの大規模な訓練がまだ必要だ。
- ワークフロー計画(Workflow Planning)段階 :「どのように」ではなく「何を達成するか」を指示するだけで、人間の意図を解釈してタスク完了までのワークフローを自動生成する。現在も開発中。
- 推論(Reasoning)段階 :自分の行動が周囲の環境をどう変えるかを推論し、期待される結果に基づいて行動経路を選択するのが特徴。家庭向けのヒューマノイド型ロボットの究極目標であり、現時点ではまだ実現に至っていない。

②ワークフローと業務プロセス全体の見直し
最先端のフィジカルAIでも、人間の作業者が行うすべてを再現することはできない。しかし多くの場合、担当タスクのおおよそ半分を代行し、人間より効率的かつ一貫した形で実行できる。価値を最大化するために、リーダーはまず、自動化が最も効果を発揮する場所を俯瞰的に捉えた上で、バリューチェーン全体の自動化モデルを設計する必要がある。フィジカルAIの戦略的な導入には、抜本的な業務再設計が必要だ。たとえば、ロボットは組立ラインの作業者が行う反復的な身体作業を代替できても、同じ作業者が担う目視による品質検査は代替できない場合がある。タスクが部分的に自動化された場合でも、必ずプロセス全体を再設計し、コスト削減とその測定、生産性向上を実現する。
次に、ロボットを前提とした工場を設計することだ。多くの企業が人間向けの作業空間をロボット向けに改修しているが、最大の効果をもたらすのは、最初からロボットのために設計・建設された工場や倉庫だ。そのような工場は稼働を止める必要がない。ロボット対応型の工場を実現するための技術がまだ整っていない場合もあるが、試行を重ねてイノベーションをし続けるリーダーは、競合他社より先に優位性を築ける可能性が高い。
③ベンダー選定前にターゲット技術アーキテクチャを明確にする
自社のアーキテクチャへの統合計画が固まらないままベンダー候補に接触すると、自社のニーズではなくベンダー側の都合に合わせたアプローチになりかねない。それを防ぐために、ハードウェア・基幹OS・シミュレーション訓練環境・アプリケーションにわたって、ベンダーシステムをどのように統合するかを事前に計画するべきだ。技術を共同開発するか、既存モデルを購入するかを判断し、新たなベンダーシステムが自社の既存ITインフラにどう組み込まれるかを、ベンダーに接触する前に明確にしておく。
一方で、動きを遅らせないことも重要だ。フィジカルAIは急速に発展しており、特定の技術をめぐる競争が生じる。ベンダーは、新規性がありやりがいのある課題を特定している企業と関わりを持ちたがる傾向があるため、体系的な計画を持つ企業ほど、最高水準のベンダーを引きつけやすい。
④職務の変化を、それが起きる前に計画する
新たな技術アーキテクチャを実装前に設計するのと同様に、労働力をどのように変化させる必要があるかも事前に計画しておくことが不可欠だ。
新たなロボットシステムの監督役としてリスキリングに適した人材を見極める必要がある。既存の従業員は自社のニーズとプロセスをすでに理解しているという強みがあり、適切なスキルアップ研修によってロボット管理という新たな役割へ移行できることが多い。一方で外部からの人材の採用も必要になるため、そのポジションに優秀な候補者を確保する計画も整えておく。
役割がどのように変わるかを、透明性をもって具体的に従業員に伝えることも重要だ。自分の役割への影響を知らない従業員は不安を増幅させ、導入の妨げになりかねない。しかし、移行を前向きに受け止める従業員もいるだろう。たとえば、組立ラインの作業者が単調な反復作業から離れ、新たな自動化システムの設計・管理というやりがいのある仕事へ移行できる機会を得られる場合もある。

⑤フィジカルAIシステムの強固なガバナンスを確立する
従来のAIと同様に、フィジカルAIにもセキュリティ上の課題が伴い、厳格なガバナンスが求められる。自社への導入にあたって、CEOは以下を徹底しなければならない。
- ロボットが従業員の安全や業務を脅かすような誤作動を起こさないよう対策する。
- フィジカルAI導入に伴うサイバーセキュリティリスクを十分に把握する。機械がより自律的・高度・連携的になるにつれ、ハッカーやその他の悪意ある攻撃者の格好の標的になりうる。ロボットやシステムが攻撃を受けた場合に、リスクを軽減し、迅速に復旧できる強固な計画を持つことが不可欠だ。
- サイバーセキュリティリスクは外部ベンダーにも及ぶことを忘れない。サプライチェーンに外部の委託先が増えるほど、攻撃者がネットワークへの侵入口を探す新たな入り口が生まれる。ベンダーが十分な警戒を怠れば、最終的にそのツケを払うのは自社になりかねない。ベンダーのセキュリティ水準も確実に確認しておくこと。
フィジカルAIは近年大きく進歩しており、その勢いは今後も続く見込みだ。どこでいつ導入するかについて今賢明な判断を下し、責任ある形で実行するCEOは、新たな水準の効率と価値を実現できるだけでなく、動きの遅い競合他社がなかなか追いつけないほどの規模とノウハウを築くことができるだろう。