世界の皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは。BCG Xの高柳です。最近、オフィスで誰かがぼそぼそひとり言をつぶやいている光景、見かけませんか? 私もよくやっているのですが、実はあれ、AIに話しかけていて、「声でAIを使う」という働き方が、徐々に、しかし確実に広がり始めています。今回は、音声入力AIの今とその裏側にあるテクノロジー、そして私自身の体験を交えながら、この波がどこへ向かうのかお伝えします。
- 各種チャットAIへの音声入力機能搭載を皮切りに、音声AI技術が急進化。GMOが全社員8,300人に展開するなど企業導入も本格化
- 音声AIはLLMと同じ「予測」の仕組みを土台にしつつ、声を直接処理する「エンドツーエンド型」へと進化。低遅延化がそのまま各社の競争軸になっている
- 人間は話す方がタイプするより約2〜3倍速い。音声入力は思考の「脳負荷」も下げるため、これからの知的生産の主役になっていく可能性が高い
「声でAIを使う」という革命がじわじわ始まっている
現在利用可能な音声AIを整理してみましょう。まず私たちが日常で最もよく使うAIツール、ChatGPTとClaudeに、すでに音声機能が搭載されています。ChatGPTの音声モードはリアルタイムの会話ができる機能で、Claudeも音声に対応しています。AIとのやりとりで、テキスト入力のみならず「話しかける」ことが可能になっているわけです。
プラットフォームの動きも加速しています。アップルは2026年6月にSiriを刷新したSiri AIを発表しました。Siri AIはグーグルのGeminiを活用し、ウェブ情報へのアクセスやアプリをまたいだ複数タスクの実行が可能になっています。そもそもSiriは最初から「声で話しかける」ことを前提に設計されたAIアシスタントで、今回の刷新で、その音声入力インターフェースにAIの知性が本格的に宿ったと言えるかもしれません。
日本からも注目のプレイヤーが登場しています。Kotoba Technologies(コトバテクノロジーズ)は自社開発の「エンドツーエンド型」(後述)音声基盤モデルKotoの商用展開を進めています。同時通訳アプリ「Kotoba – 同時通訳・音声メモ」は、「予測翻訳」機能(話し終わる0.5秒前から翻訳が開始され、ほぼリアルタイムの同時通訳を実現)をひっさげ、日本発の音声AI技術として注目を集めています。また、AIを活用した音声入力ソフトSuperwhisper、Typeless、Aqua Voiceなどの普及も合わさって、「声で操作する」という選択肢が一気に現実的になってきました。
こうした技術の成熟を受けて、企業の導入も本格化しています。GMOインターネットグループは2026年6月、「プロジェクト・ウィスパー for AI byGMO」という取り組みを始めました。グループの従業員約8,300人を対象に音声入力での生成AI活用を推奨し、オフィス全席に高機能マイクを設置するというものです。
音声AIの「中身」はLLMとどう違うのか
では、音声入力AIのテクノロジーは、テキスト入力を扱うチャットボット(LLM、大規模言語モデル)と何が違うのでしょうか。少し技術的なお話ですが、できるだけ平易に解説してみます。
チャットボットとしてのChatGPTやClaudeに使われているLLMは、「オートレグレッシブ・トランスフォーマー」と呼ばれる仕組みで動いています。テキストを1トークン(単語の断片)ずつ左から右へ順番に予測・生成する方式で、「文脈を理解して次の言葉を当てる」という作業を高速で繰り返しています。
音声AIも、この「次を予測する」という基本的な発想は共通しています。違いはテキストを介さず、入力も出力も音声であることです。従来のやり方は、音声認識(声→テキスト)→LLM(テキスト→テキスト)→音声合成(テキスト→声)という3つのモデルを直列でつなぐ「カスケード(連鎖)型」でした。声を一度テキストに変換し、処理し、また声に戻すという3段階を踏みます。この方法だと機能を作りやすい反面、変換のたびに声色などの背景情報が失われるのが弱点です。急いでいる声も落ち込んだ声も、テキストになった瞬間にただの「明日の天気は?」になってしまうわけですね。

これに対して近年主流になりつつあるのが「エンドツーエンド型」です。声から声へ、途中でテキストに変換することなく直接処理する方式で、OpenAIのGPT-Realtime-2やコトバテクノロジーズのKotoがこれにあたります。遅延が少なく、話者の感情やニュアンスも保持しやすいのが強み。まさにLLMが1つのモデルで文章を一気通貫に処理するのと同じ発想を、音声の世界に持ち込んだものと言えます。私たちユーザーが「最近のAI、話しかけると自然に返ってくるな」と感じる裏側には、この、地味だけれど本質的な技術競争があるのです。
私もオフィスでAIにぶつぶつ話しかけています
正直に言うと、私はこのコラムも音声入力で下書きしました。オフィスで一人でぶつぶつとAIに向かって話しかけているわけです。周りから見たら少々奇妙に映るかもしれませんが(笑)。
私がなぜテキスト入力ではなく音声入力を使うようになったのか、というと、シンプルに「速いから」です。スタンフォード大学の研究によれば、音声入力はスマートフォンでのキーボード入力と比較して約3倍の速さでテキストを入力できる(英語で1分間に153語 vs 52語)ということが示されています。また、日本語でも人間の自然な発話速度は1分間で約150語、熟練したキーボード入力は約60語程度とされ、つまり、話す方が打つよりおよそ2~3倍速い計算になるわけで、これはざっくり皆さんの体感にも合う数値ではないでしょうか?
さらに、速さだけではなく、音声入力の、特にAIに対して音声入力する真の威力は、「脳の負荷を下げる」ことにあると私は感じています。文章を書くとき、人は「何をどう言いたいか」を考えながら「どう構造化するか」も同時に考えなければなりません。しかし声に出すときは、完全に整理されていない考えでも、そのまま吐き出すことができます。メモでも、日記でも、AIへの指示でも、「まず話して、後で(AIが!)整える」というフローが、思考の質を上げてくれる感覚があります。
「話す」が知的生産の主役になる日
ここまでの私的な体験まで含めた話を踏まえて考えると、「声でAIを使う」時代はもうそこまで来ているように思えます。皆がAIに対して、声でアイデアを出し、声で指示し、声で確認する——そんな「ボイスファースト」な知的生産スタイルが、数年以内に当たり前になっている、そんな世界です。
私は既にアーリーアダプターとして始めているのですが、ぜひ皆さんも、一度試してみてください。最初はちょっと恥ずかしいかもしれませんが(笑)。
次回もお楽しみに、Catch you later!

高柳 慎一
ボストン コンサルティング グループ
BCG X パートナー
北海道大学理学部卒業。同大学大学院理学研究科修了。総合研究大学院大学複合科学研究科統計科学専攻博士課程修了。博士(統計科学)。株式会社リクルートコミュニケーションズ、LINE株式会社、株式会社ユーザベースなどを経て現在に至る。デジタル専門組織BCG Xにおける、生成AIを含むAIと統計科学のエキスパート。
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BCG XのAIエキスパートがわかりやすく解説 2026.07.14