データセンター需要で電力危機 AI時代に問われるインフラ戦略

日本のエネルギー・インフラ産業は、いま大きな転換点にある。これまで国内の電力需要は減少を前提としてきたが、AIやデータセンター需要の拡大を背景に、再び増加局面に入りつつある。加えて、ウクライナ情勢や中東情勢を受け、安全保障の重要性がかつてないほど高まっている。

一方で、既存インフラの老朽化が進み、サプライチェーン不足、技術者不足、事業者の財務体力不足といった制約が重なり、現状維持すら困難な状況だ。

さらにAI時代の到来によって、電力、データセンター、通信インフラを一体で設計・運用する重要性も高まっている。エネルギー・インフラは、もはや単なる社会基盤ではなく、国家競争力そのものを左右する戦略領域となった。本連載「エネルギー・インフラ危機を、日本の成長戦略に」では、この構造変化を踏まえ、日本の成長戦略としてのエネルギー・インフラの方向性を考える。

電力需要は再び拡大局面へ

日本のエネルギー・インフラはいま、老朽化が深刻化する中で需要構造が大きく変化するという、重大な局面にある。

高度経済成長期に整備されたインフラは更新時期を迎え、水道管の破裂や道路陥没といった形で老朽化が顕在化している。電力インフラも例外ではなく、発電・送配電設備の高経年化が進む中で、その維持・更新は喫緊の課題である。

こうした中で、AIやデータセンターを中心としたデジタル需要の急増、さらには電化の進展により、電力需要は構造的に拡大していくと見込まれる。BCGは、データセンターの電力需要が2040年には国内電力需要の2割近くを占めると試算している(図表)。この需要をまかなうためには年間平均で1000万~2000万kW(キロワット)の電力供給が必要となり、これは原子力発電所10~20基分に相当する。一方で、電源の新設や系統整備は必ずしも需要の伸びに追いついておらず、すでに需給ひっ迫が断続的に発生しているなど、供給力には余裕がない状況だ。

国内電力供給量に占めるデータセンターのインパクトを示した図

従来、日本では少子高齢化や省エネの進展により電力需要は減少していくと見込まれていた。実際、2011年の東日本大震災から数年前までは電力需要は減少傾向にあり、経済産業省・資源エネルギー庁によると、2013年に0.99兆kWh(キロワット時)だった電力需要は、2022年には0.90兆kWhにまで減少している。そのため、今後の発電容量は縮小・最適化される前提だった。同時に、脱炭素社会の実現に向け、既存設備の効率化や水素・アンモニア火力への転換、再生可能エネルギー(再エネ)の大量導入によって、複数の発電方法を効率的に組み合わせる電源ミックスへの変更も推進されてきた。

ところが、生成AIの爆発的な普及を受けて電力需要は増加し、インフレやウクライナ情勢、各国の脱炭素政策の転換により、水素・アンモニア火力や洋上風力のコストも上昇した。

現在、原子力の再稼働は進みつつあるものの、中長期的には廃炉に伴い発電容量は減少する。再生可能エネルギーについても、洋上風力は政策動向の影響を強く受けるため、急速に拡大するかは不確実である。電力需要が増加に転じる中、現実的には安定供給を担う火力発電の活用が不可欠だが、そのためにはLNG調達力の強化と競争力の確保が求められる。

従来の発電所計画を遂行するだけでは、AIの利用拡大に伴う電力需要の急増に対応しきれないことは明らかだ。BCGの想定では、将来的に求められるデータセンター増加分の半分程度の電力までしか対応できないというシナリオも考えられている。

さらに、地政学リスクのさらなる高まりも無視できない。中東情勢をはじめとする国際環境の不安定化は、エネルギー供給の前提を揺るがしている。電力、エネルギー・インフラはもはや単なる経済基盤ではなく、安全保障そのものである。

成長を阻む、社会構造としての3つのボトルネック

しかし、これらの課題は単なる投資拡大では解決しない。より本質的な問題は、社会構造としてのボトルネックにある。

第一に、資機材・サプライチェーンの制約である。発電設備に不可欠なガスタービン、変圧器、高圧ケーブルといった主要機材は、すでにグローバルで奪い合いの状況にあり、調達には数年単位のリードタイムを要する。これらはデータセンターなど他産業とも競合しており、電力インフラ単独の問題ではない。

第二に、人材不足である。発電や送配電に関わる技術者は、データセンター、半導体工場、都市開発といった分野との間で争奪戦となっている。日本はすでに技術者人口の減少と高齢化という構造課題を抱えており、従来の労働集約型のインフラモデルは限界に近づいている。

第三に、ファイナンスの制約である。電力会社の多くは十分な財務体力を有しておらず、大規模投資を単独で担うことは難しい。現行の制度設計もリスクに見合うリターンを十分に確保できるものではなく、投資判断を難しくしている。

AI時代に重要なのは統合インフラの再設計

このような制約環境の中では、従来の延長線上での対応には限界がある。求められているのは、エネルギー・インフラのあり方そのものを再設計することである。

今後の方向性として重要なのは、AIインフラ、データセンター・インフラ、そして電力インフラを一体的に捉える視点である。電力は単なる供給対象ではなく、デジタル産業の立地や競争力を規定する中核要素となる。データセンターの立地、電力供給、系統接続、蓄電や需要制御までを含めた統合的な設計・運用が不可欠だ。

米国のテック企業はすでにこの領域に取り組み、自社で分析・設計・運用能力を構築するだけでなく、AIソフトだけでなくデータセンターや発電所といったインフラの開発・保有にも踏み込んでいる。たとえばスペースXが買収したxAI(エックスAI)はテネシー州で運用する巨大データセンターに電力を直接供給するため、ガスタービンを大量導入している。

電力インフラを中核に据えながら、デジタルインフラと一体となった新たな産業基盤を構築し、そこから成長の好循環を生み出すことが求められる。これは単なるインフラ整備ではなく、国家の産業構造そのものを再設計する取り組みである。

エネルギー・インフラの問題は、もはや個別分野の課題ではない。複合的な制約を前提に基盤を再設計することこそが、日本の成長戦略の出発点となる。この巨大な転換点をどう成長につなげるべきか、次回以降、その具体像を検討していく。

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