米国データセンターで最大80GWの電力不足 CCUS付ガス火力発電が最適解か

著者 :
ボストン コンサルティング グループ

AIの普及を背景に、米国ではデータセンター向け電力需要が急拡大している。この需要増に供給能力が追い付かず、2030年までに約80ギガワット(GW)の電力不足が発生する可能性があるとBCGは分析している。

こうした中、安定供給と脱炭素を両立する発電手段として有力視されるのが、CCUS(CO2の回収・有効利用・貯留)設備を組み合わせたガス火力発電だ。米国データセンター市場で電力問題が深刻化する背景を整理し、CCUS付ガス火力発電が有力視される理由と、AI時代に求められる電力戦略の方向性を考察する。

AIの進化に伴いデータセンターの電力不足が深刻に

AIの高度化に伴って学習や推論に必要な計算量は飛躍的に増加しており、グーグル、メタなどハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)各社は次々に大規模なデータセンターの建設を進めている。こうした施設は膨大な電力を常時消費するため、データセンター向けの電力需要は今後さらに増加すると見込まれている。

一方で、その需要増に対し、発電能力や送電インフラの整備が追いついていない。BCGの分析によれば、米国では2030年までに、データセンターが必要とする安定供給可能な電力に対し、実際の発電能力が80GW程度不足する可能性がある(図表1)。これは大型ガス火力発電所数十基分に相当する規模であり、AIの進化と普及がエネルギーインフラに与える影響の大きさを示している。

米国データセンターの年間電力需要は2024年の325TWhから2030年に800〜1,050TWhへ拡大見込み。下段は発電能力の不足予測を示し、2030年には約80GW(大型ガス火力発電所数十基分)に達する見通し。

データセンターにとって必要なのは、単に大量の電力を確保することではない。AI向けデータセンターは24時間365日稼働するため、天候や時間帯に左右されず安定供給できる発電手段が不可欠となる。また、多くのテクノロジー企業は2030年前後に脱炭素電力の利用目標を掲げており、その対応も同時に求められている。

CCUS付ガス火力発電が有力視される理由

データセンター事業者は現在、安定供給と脱炭素を両立できる発電手段の確保を急いでいる。再生可能エネルギーに加え、原子力、地熱、水素などさまざまな選択肢が検討されているが、それぞれ導入スピードやコスト、大規模展開のしやすさなどの面で課題を抱えている。

BCGは、米国データセンター市場で利用可能な8つの発電技術について、「導入スピード」「発電コスト」「導入実績」「大規模展開のしやすさ」「規制面での支援」「低炭素性」の6つの観点から比較を行った。その結果、CCUS(CO2の回収・有効利用・貯留)設備を組み合わせたガス火力発電は、すべての観点で高い評価を得た(図表2)。BCGは、2030年までの米国市場において、CCUS付ガス火力発電が有力な選択肢の1つになると分析している。

8つの発電技術を6基準(導入スピード・コスト・導入実績・大規模展開・規制支援・低炭素性)で評価。唯一すべての基準で高評価を得たのはCCUS付きガス火力発電で、最短3年での稼働とCO2排出70%以上削減が可能。

特に評価されたのは、短期間で大規模な供給力を確保しやすい点だ。データセンター専用に建設されるガス火力発電所であれば、送電網を介さずに直接電力を供給できるため、着工から最短3年程度で稼働可能とされる。一方、原子力発電所は建設期間が長く、再生可能エネルギーも送電網接続や蓄電池整備などに時間を要するケースが多い。

コスト面でも、この発電方式は一定の競争力を持つ。米国では、CO2を回収・貯留する事業を対象とした「45Q税額控除」が導入されており、これが経済性を大きく支えている。BCGの分析によれば、既存のガス火力発電所にCCUS設備を追加する場合、発電コストは1メガワット時あたり65〜80ドル程度に抑えられる可能性がある。これは、45〜100ドル程度という従来型ガス火力の水準にも近く、水素や原子力など他の低炭素電源と比べても競争力のあるコストとみられている。さらに導入が進めば、設備の標準化や経験効果によるコスト低下も見込める。

また、米国ではCCUSが州レベルの政策立案者や規制当局から比較的広い支持を得ており、許認可手続きの迅速化につながる可能性がある点も強みだ。ガス火力発電はすでに主要な発電方式として普及しており、関連インフラも整備されている。さらに、回収したCO2を貯留できる地層がテキサス州や中西部を中心に豊富に存在することも、大規模展開を後押ししている。近年ではエクソンモービルやシェブロンといった石油大手も参入を進めており、商用化に向けた動きも広がりつつある。

さらに、この方式は従来型ガス火力よりCO2排出量を大幅に削減できる。BCGの試算では、発電時に発生するCO2の90%以上を回収でき、燃料調達などを含んでもCO2排出を70%以上削減可能としている。これは、24時間安定した電力供給を維持しながら脱炭素目標の達成も求められるハイパースケーラー各社にとって、有力な選択肢になり得る。

AI時代には「電力戦略」の再構築が求められる

AI時代には、短期的な電力の供給確保と、中長期的な脱炭素目標の両立をどう図るかを考えなくてはならない。再生可能エネルギーの導入拡大は引き続き重要である一方、AI時代の需要増を考えれば、それだけで必要な電力を安定的に賄うことは難しい。今後は、CCUS付ガス火力発電に加え、原子力や地熱なども含め、複数の発電方式を組み合わせたポートフォリオ型の戦略が重要になるだろう。

また、電力確保に向けた取り組みは、自社単独で完結するものではない。電力会社、ガス事業者、インフラ企業、CO2輸送・貯留事業者など、多様な事業者との連携も重要になる。特にCCUS付ガス火力発電では、CO2の回収だけでなく、輸送・貯留インフラまで含めたエコシステム構築が不可欠となる。

加えて、政策動向も投資判断に大きな影響を与える。現在、米国では45Q税額控除がCCUS導入を後押ししているが、こうした支援策は将来的に変化する可能性もある。そのため企業には、補助制度を活用しながらも、制度変更リスクを織り込んだ柔軟な戦略設計が求められる。

AI競争が激化する中、今後は半導体やアルゴリズムだけでなく、「必要な電力を安定的かつ低炭素で確保できるか」が、企業の競争力を左右する重要な要素になっていくだろう。

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