サッカーワールドカップ(W杯)北中米大会が幕を閉じた。今回の大会が示したように、サッカーが世界で最も人気のあるスポーツになったのは、この競技が持つ観客の感情を揺さぶる力やファンとの深い結びつきによるものだ。
初めてW杯が開催されてから約1世紀が経った今も、試合の形はほとんど変わっていない。試合時間は90分、両チーム11人、ゴールは2つのままだ。しかし、過去50年間で試合を取り巻く環境は劇的に変化した。サッカー産業は、試合当日の入場者収入に依存するローカルなビジネスから、年間数百億ドルもの収益を生み出すグローバル産業へと変貌を遂げた。その結果、サッカー産業のエコシステムはかつてないほど豊かになった一方、運営・管理はより複雑になっている。
サッカー産業の行方を読み解くべく、業界を変化させている3つのメガトレンドを探る。
トレンド1:収益はどこで生まれるか
サッカー産業の黎明期、クラブは地域のファンに大きく依存し、収益はスタジアム周辺のコミュニティに根ざしていた。その後、放送メディアが地域のクラブをグローバルブランドへと転換させ、放映権、スポンサーシップ、海外ファンからの収益により、爆発的な成長期が到来した。
国内放映権の成長が鈍化するなか、欧州の大手クラブは国際放映権のほか、商業スポンサーシップ、グッズ販売、メンバーシップなど、多様な手段で成長を牽引している。現在、欧州のサッカー市場規模は380億ユーロを超え、収益上位20クラブだけで欧州5大リーグ(イングランドのプレミアリーグ、スペインのラ・リーガ、ドイツのブンデスリーガ、イタリアのセリエA、フランスのリーグ・アン)全体の収益の半分以上にあたる110億ユーロ超を生み出している。
欧州以外の地域でも新たな成長源が台頭しつつある。サウジアラビアのクラブは、アジアに世界最高峰のサッカーの中心地を作ろうと、移籍シーズン1回で約10億ドルを費やした。米国では、メジャーリーグサッカー(MLS)の1試合平均観客数が21,000人を超えた。モロッコは2030年W杯の共同開催に向けて50億ドル超を投じている。

ストリーミング配信はサッカーを世界規模のコンテンツへと変革する一助となった。2022年のW杯期間中のエンゲージメント(SNSや動画サービスでの、いいね!やコメントなどの反応、共有)は約50億件にのぼった。しかし、観客数が急速に増加しているにもかかわらず、無料のオンラインストリーミングは放映権収益への貢献が相対的に小さい。そのため、従来の放送局や有料配信サービスが依然としてサッカーのメディア収入の大半を占めている。
トレンド2:競技はどのように管理・運営されるか
最も資金力のあるクラブとその他のクラブとの格差は拡大し、オーナーシップの集中も進んでいる。しかし、欧州の1部リーグのクラブでも黒字を達成しているのは約半数にすぎず、財政状況は年ごとに大きく変動しうる。プレミアリーグからチャンピオンシップ(最上位であるプレミアリーグの一つ下のディビジョン)へ降格したクラブは、年間の収入の3分の2以上を一夜にして失いかねない。昇降格のあるオープン型のピラミッド構造が確立された黎明期の主要な収入源は入場料であり、ディビジョンの違いによる財政格差はずっと小さかった。
こうした状況を受け、財政的持続可能性がサッカーのガバナンス論争の中心に置かれるようになっている。2020〜22年にかけての欧州5大リーグの賃金対収益比率は平均約64%であり、サラリーキャップ(年俸上限規制)を設けている北米の主要スポーツリーグの約50%と比べて高い。移籍金と選手報酬を合算すると、プレミアリーグのクラブは2022〜23年シーズンに選手関連費用として約57億ポンドを支出しており、これはリーグ総収益の約90%に相当する。
その対応として、規制当局はクラブの収益に対する支出額の上限を設定している。欧州サッカー連盟(UEFA)の「スカッドコスト比率」は、選手報酬、移籍金、エージェント手数料の合計が、クラブ収益の70%を超えないよう規制するものだ。この規則はUEFAの欧州クラブ大会に出場するクラブにのみ正式に適用されるが、出場権の取得を目指す多くのクラブがUEFAの基準に沿って自己管理を行っており、多くの国内リーグも類似した独自の規制を導入している。
MLB(野球)やNBA(バスケットボール)などの北米スポーツから影響を受け、一部のリーグはクローズドシステムの要素を取り入れている。メジャーリーグサッカーやオーストラリア・ニュージーランドのAリーグは昇降格なしで設立された。降格からクラブを守ることで収益が予測しやすくなり、長期的な投資を促すという論理がその背景にある。同様に、欧州スーパーリーグ構想も、半クローズド型の構造を通じて有力クラブに財政的安定をもたらすことを目指していたが、サッカーの伝統である実力主義を脅かすものとして広く反発を受けた。
トレンド3:試合日程はどのような形をとるか
サッカーの人気拡大は、試合数にも影響を及ぼしている。UEFAチャンピオンズリーグやFIFAクラブW杯の出場クラブ数は拡大され、W杯も2026年に32チームから48チームへと増枠された。個々の変更はそれ自体として合理的だ。試合数が多くなれば観客は増え、商業的価値は大きくなる。しかしサッカー産業全体で見れば、選手への負担は増大し続け、ファンを困惑させ消耗させるリスクをはらんでいる。
イングランドのPFA(プロサッカー選手協会)のマヘタ・モランゴ最高経営責任者は、選手の1シーズンの試合出場数は50〜60試合を上限とすべきだと提言している。しかし、所属クラブと代表チームの両方の負担が増していることから、一部の選手は年間60試合を超えて出場している。
試合数を増やすインセンティブは多々あるが、選手が現実的にプレーできる試合数には限界がある。その限界を超えれば、過密なスケジュールはケガ、疲労、燃え尽き症候群のリスクを高め、選手の健康と競技の質を損ないかねない。

2026年W杯以降、サッカー産業はどこへ向かうのか
現在のトレンドが続けば、資金は少数のクラブと国際大会にますます集中する。最上位のエリートクラブがより収益性を高め、サッカーが生み出す価値の多くを手中に収める。試合数が拡大するにつれ、エリートクラブは事実上2チーム分のスターティングメンバーを抱えるようになる。ガバナンスはFIFA、UEFA、リーグ、各国の規制が複雑に絡み合った状態が続く。つまり、スポーツとしての規模は拡大し、より豊かになり、よりグローバルになるが、同時に過密化、格差拡大、上位集中という問題も深刻化する。
しかし、この未来は決して不可避ではない。いくつかの要素を変えられれば、将来を全く異なる方向へと押し進めうる。たとえば、次のような可能性が考えられる。
- UEFAのスカッドコスト規制がコスト拡大競争の抑制に成功し、有力クラブが収益の安定性を獲得する
- 小・中規模の国内リーグが、共同放映権の契約や試合日程の調整、商業プラットフォームの共有、あるいは国境を越えたリーグの構築などを通じて連携する
- 選手が、集団行動、法規制、裁判所の判決を通じて1シーズンあたりの出場試合数に制限を課す
- 90分制にとらわれない、よりスピーディーでストリーミング向けに設計された競技が台頭する
どのような将来が実現するかは、クラブ、リーグ、投資家、選手、規制当局が今日下す選択にかかっている。コスト規制の強化、ガバナンスの簡素化、選手の保護、競争モデルの洗練といった課題に取り組むことが必要だ。そして最も重要なことは、成長の恩恵を享受しながら、そもそもサッカーを世界で最も人気のスポーツたらしめてきた、本質的な価値を守ることだ。