二酸化炭素から食料をつくる――シニア・パートナー森田の眼

宇宙飛行が長期にわたるようになると、宇宙飛行士の食料をどうするかが問題となる。1970年ごろ、NASA(米航空宇宙局)の研究の一つに、宇宙飛行士の吐き出す二酸化炭素(CO2)と微生物を結び付けて食料を創り出すというものがあった。アメリカとソ連の宇宙開発競争がその政治的使命を終えたことで鎮静化した時にこの研究も忘れ去られ、何十年もの月日が経ってしまった。

しかしながら、現代になってこの研究を実現しようとする動きがある。空気中に存在するCO2を原料に、微生物を活用して発酵させ、タンパク質を豊富に含む食料へと転換させている。既にFDA(米食品医薬品局)から食品としての安全性の認証を取っており、これから商業化していこうという段階にある。

食べる側にとって重要な栄養価としては、ビタミン・ミネラルのほか、9種類の必須アミノ酸全てが多く含まれる。農業や畜産による土地利用の変化もなく、農薬や肥料も使わない。これは食料危機を解決するだけでなく、CO2を直接的に減らすことで気候変動の問題を同時に解決するという「一石二鳥」のアイデアなのかもしれない。

生命活動は、炭素を巡るサーキュラーエコノミーだ。CO2を植物が吸収し、それを動物が食べ、人間が食べ、CO2を吐き出すことで循環してきた。この壮大な輪をショートカットすることは、生態系そのものを人為的に変えることにほかならない。我々はそれが生態系にどのような影響をもたらすのかを考える責任も同時に負っている。

※本記事は、2024年11月12日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。