農業の閉塞感を打破する「水平分離」モデル――シニア・パートナー森田の眼
代々受け継いだ土地で、生計のため、あるいはその一助とするために農業をするという伝統は、兼業かつ小規模農家が多く生産性が上がりにくいという日本の農業の特徴の一因として、しばしば挙げられてきた。この伝統を崩す革新的な動きに注目したい。革新というものはいつも突然に起こり、インパクトは予想の斜め上を行くものだ。
「超低コスト国産米」なるものの実証実験が進んでいると聞いている。乾田直播、すなわち水を入れていない、畑のような状態の田に種子をまくという「畑でコメを育てる」ような農法だ。田んぼで育てた場合のメタンの発生量に比べ温暖化ガス排出量がかなり低減され、かつ低コストで栽培できるので、コメ作りの切り札にもなり得る存在だ。
もしかすると、伝統的な農家はこうした革新的な農法を導入しないかもしれない。ならば発想を変えて、土地とヒトをそれぞれ持ってくれば良い。実際、投資家からカネを集め、土地を調達して効率の良い農業を展開し、農作物を需要家に買ってもらうビジネスモデルを始めている企業もある。こうした土地に対し、ヒトの就農を支援することも考えられる。
これらは、農業というものが、伝統的な「垂直統合」モデルから、土地・ヒト・農法をそれぞれ別の主体が担う「水平分離」モデルに転換することを意味している。それを主導するのも、革新的な企業にほかならない。この革新の連鎖が意味するのは「農業の産業化」だ。より生産性が高まり、効率の良い商取引につながることが、農業の閉塞感を打破するのではないか。
※本記事は、2024年5月31日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。