シェア・オブ・ウォレットと競争優位性――シニア・パートナー森田の眼

小売りはPOS(販売時点情報管理)と呼ばれる自社の販売データ分析に力を注いできた。ただ、販売目標や品ぞろえを決めたり、プロモーションの効果を分析したりすることはできても、過去や自社の他店舗との比較でしかなく、競合との比較には使えなかった。複数の業態・サービスを持つ企業でも、消費の一部しかカバーできないのが悩みだった。
これに対して、SOW(シェア・オブ・ウォレット)を把握しようという動きが広がっている。消費者がどこで何を買い、どれだけお金を使っているかを自社以外についても把握するために、モニターを組織化し、全てのレシートのデータを収集する取り組みだ。粒度の異なるデータを集計・加工するには工夫が必要だが、その壁を乗り越えた事例も出ている。
消費者は、週末に遠方の大型店舗でまとめ買いをしたり、平日に近くのスーパーで消費期限の短い生鮮品や日配品を買い足したりと、ニーズによって店舗を使い分けている。小売業態が多様化・融合化する中、SOWを分析することで、その地域の消費者のニーズをより包括的に捉える企業が競争優位性を発揮できるだろう。
これは小売り単体の世界にとどまらない。最近では、小売りが異業種とのポイントなどを介した経済圏の構築で顧客を囲い込む動きが盛んだ。経済圏として囲い込めば、携帯電話のように解約を防ぎ利益流出を防げるプレーヤーにとってありがたい。逆に言えば、小売りもそれを投資原資として、単体ではできない戦い方が可能になるだろう。
※本記事は、2024年10月11日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。