森林破壊フリーの証明とサプライチェーン変革――シニア・パートナー森田の眼

ネットゼロに向けたルールが厳格化している。SBTiのFLAG(森林・土地・農業)ガイドラインでは、食品・飲料メーカーなど、原材料や製品の多くを自然に依存している企業に対し、森林破壊に加担していないことの証明が求められるようになった。森林を伐採し、農地に転用することは温室効果ガス削減の妨げになるため、需要家であるメーカーや小売の自助努力を引き出そうという狙いだ。

これはサプライチェーン(SC、供給網)の在り方を変えるだろう。従来の流通構造では多くの農家から農作物を集めるが、これでは森林破壊によって開発された農地で生産されたものが混ざってしまう。従って、グローバル大手は森林破壊に加担していない農家と直接契約し、現地生産に切り替えた。生産の「自前化・現地化」が一気に進もうとしている。

しかし、全ての企業が「自前化・現地化」できるわけではない。1万トンしか調達しない中堅企業は、100万トン調達している大手の農家ネットワークや生産設備を使わせてもらった方が良いかもしれない。一方、大手企業はマージンを乗せられるので、調達原価で常に優位性を発揮できる。すなわち、規模の経済が復活するのだ。

地域間の競争環境も変わるだろう。南米のようにもともと森林が多く、農地を作るのに伐採が欠かせない地域は調達先に選ばれにくくなる。調達先が集中することで、原材料自体が不足し、価格が上がるものも出てくるだろう。それを見越して代替品を開発する必要もあるかもしれない。SCの変革は待ったなしだ。

※本記事は、2024年8月2日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。