世界の運用資産は前年比12%増、日本は17%増 2023年末、業界の利益は減少

今年1月に新NISA(少額投資非課税制度)が始まったのをきっかけに、日本でも資産運用への関心が改めて高まっている。ボストン コンサルティング グループ(BCG)が毎年発表している資産運用市場と運用会社の動向についてのレポート、グローバルアセットマネジメント・レポートによると、2023年末の世界運用資産残高は前年比12%増だった。一方、業界の利益は同8.1%減と収益面の壁に直面していることもわかった。レポートの発表は今回で22回目。

運用資産残高は大幅増でも収益はわずか0.2%増

BCGは、2023年末の世界の運用資産残高を118兆ドルと推計している。前年比9%減だった2022年(106兆ドル)から12%増となり、立ち直りの動きをみせた。日本における運用資産残高は17%増、5.8兆ドルだった。世界全体の新規流入資金は年初の運用資産残高の2.1%と推計している。

世界の運用資産残高の推移を表したグラフ

一方で、2023年の資産運用業界全体の収益額は前年比0.2%増にとどまり、コストは4.3%増加。利益は8.1%減少した。

BCG東京オフィスのマネージング・ディレクター&パートナー、栗原 勝芳は「日本の運用資産残高の伸長も、株価の値上がりなど資産価格の上昇という市場要因が大きい。運用資産残高が大幅に伸長する一方、業界は収益面での構造的な問題に直面しているといえる」とコメントしている。

投資信託の人気が継続的に拡大

資産運用業界に収益面の課題を突き付ける要因は、次の5つだ。

収益の圧迫: 2005年以降、業界の収益成長の約90%は市場のパフォーマンスの向上によるものだった。しかし今後はそれに頼ることはできず、収益の圧迫は続くとみられる

手数料の引き下げ圧力: 販売手数料の引き下げ圧力は続いており、2023年の平均手数料は0.22%。2015年の0.25%、2010年の0.26%と比べ低下している

コスト上昇: コストは上昇の一途をたどっている。2010年以降、コストは年平均5%上昇し、2010年と比べ約80%増となった

生き残る新商品の減少: 資産運用会社は新しい商品を開発しようとしているが、その試みの多くは成功していない。2013年に発売された投資信託商品のうち、2023年まで存続している商品はわずか37%

生成AIをビジネス全体に導入しているのは運用会社の16%

このような厳しい状況下で、資産運用会社の成長のカギとなるのがAI戦略だ。資産運用会社のAIに関する取り組みがどれほど進んでいるかを分析するため、BCGは米投資信託協会(ICI)と米国CFA(Chartered Financial Analyst)協会と共同で、生成AIの導入に焦点を当てたグローバル調査を2024年第1四半期に実施した。調査対象となった主要運用会社57社の運用資産残高は合計で15兆ドルにのぼる。

その結果、運用会社の72%が、今後3~5年以内に生成AIが組織に大きな、または変革的な影響を与えると考えていることがわかった。75%が短期的な生成AI展開のために資本と人的資源を積極的に投入しており、29%はイノベーション予算の大部分を生成AIに投入している。一方で、生成AI戦略を完全な形で定義し、ビジネス全体への導入に取り組んでいるのはわずか16%。生成AIに、早期に、かつ積極的に取り組むことが差別化要因となりうることがわかる。

BCGの分析によると、AIの活用により、資産運用会社のバリューチェーン全体の生産性を向上させられる。営業や投資管理・取引執行、マーケティング、オペレーション等、それぞれの機能で5~40%生産性が向上することで、全体では5~15%の生産性向上が見込める。

AIを活用した場合にバリューチェーン全体の生産性が向上することを示した図表

レポートの共著者でBCGロンドン・オフィスのマネージング・ディレクター&パートナー、ディーン・フランクルは次のようにコメントしている。「業界が直面する構造的な課題は、今後も深刻化し続けるだろう。資産運用会社は、競争力を維持するためにAIがもたらす機会をとらえ、生産性の向上や商品のパーソナライゼーションに取り組み、大きな可能性を持つプライベート市場(非上場資産を対象にした投資)への注力を進めるべきだ」

■ 調査資料
Global Asset Management Report 2024:AI and the Next Wave of Transformation