世界のフィンテックの売上規模 2030年までに1兆5,000億ドルに成長すると予測
世界のフィンテック企業の売上規模(収益)は2030年までに1兆5,000 億ドルに成長するとの予測を、ボストン コンサルティング グループと米国のベンチャーキャピタルQEDインベスターズが発表した。両社の共同レポートでは、世界のフィンテック企業のCEOや投資家60人以上へのインタビューに基づき、フィンテック業界をめぐる主要なテーマやトレンドについてまとめている。
暗号資産や中国関連を除くフィンテックの収益は特に好調
世界のフィンテック企業は順調に収益を伸ばし続けて、2021年から2023年の2年間の年平均成長率(CAGR)は14%、暗号資産や中国関連のフィンテックを除くと同21%の成長を遂げている(図表1) 。成長の背景には、金利上昇の局面が続いていることや、大手銀行が顧客のデータを活用した広告を出すことで効果を高めていることなどが挙げられる。
一方、レベニュー・マルチプル(収益評価倍率)1は高水準だった2021年の平均20倍から2023年には4倍に落ち込んだ。さらに、資金調達額は保険と決済を除くすべてのフィンテックで少なくとも半減しており、全体では2023年は2021年と比べ70%減少し、特に2022年からは1年間で50%近く減少した(図表2)。
しかし、こうした低迷は短期的なものであり、現在は安定し始めていると考えられる。また、フィンテック業界の事業モデルは「成長第一」から、収益性を伴う成長を重視するモデルへと転換し始め、本業の利益率を示すEBITDAマージンは平均9%ポイント改善している。
フィンテックの未来を形成する4つのテーマ
レポートでは、今後数年間でフィンテック業界を牽引するであろう4つのトレンドについて、次のように解説している。
●エンベデッドファイナンス(組み込み型金融):市場規模は2030年までに3,200億ドルになると推計される。当面は既存のフィンテック企業が利益の大部分を享受し続ける見込みだが、大手銀行も次第にシェアを拡大していくと予想される
●コネクテッドコマース:コネクテッドコマースは、金融機関が詳細な顧客データを活用してパーソナライズされた広告を顧客に表示することにより、販売側から報酬を得る仕組み。銀行の中核的な収益源が圧迫され、金利上昇の環境下で預金の差別化が難しくなる中、銀行の将来モデルを考える上でのヒントとなる
●オープンバンキング:金融機関が持つデータや機能を外部企業が利用して新サービスを生み出すオープンバンキングは、早くから導入されている国でも目立った活用事例がない。今後も注目される一方、銀行の競争基盤を大きく変えることはないと考えられる
●生成AIによる生産性向上:フィンテック企業にとって、カスタマーサポートやデジタルマーケティングなど、生成AIの強みが発揮される機能は非常に重要だ。生成AI導入の影響は短期的には特に顕著だろう。生産性向上の面ではすでに大きな変革をもたらしており、今後はプロダクトイノベーションの側面でも活用されると考えられる
慎重さ、利益、成長の3つが重要なポイント
BCGとQEDインベスターズは、このような新たな環境で成功するため、リスク管理とコンプライアンスを競争優位性とみなす慎重な姿勢が求められると指摘している。また、2023年に大手上場フィンテック企業70社のうち利益を上げていたのは33社のみで、上位4分の1と下位4分の1の企業には利益率で25%ポイントの差があった。そのため、フィンテック業界全体でコスト削減の余地があり、企業は成長を続ける中で複利的なリターンを生み出すコスト構造の構築が求められる。
さらに、フィンテック業界全体でIPOやM&Aが活発化すると予想される中、持続可能なコストでユーザーを獲得し、利益を上げ、厳しい規制要件に対応するための条件設定が企業にとって重要だと解説している。
政府の取り組みも不可欠だ。特に新興市場においては、政府がDPI(デジタル公共インフラ)エコシステムを導入することで、金融サービスへのアクセスを拡大し、市民に利益をもたらしている。政府がインフラの全体像を示し、民間企業がそれを導入するよう促すためのガイドラインや方針を設けることで、DPIをうまく機能させることができる。
レポートの共著者でBCGニューヨーク・オフィスのマネージング・ディレクター&シニア・パートナー、Deepak Goyalは「現在フィンテック業界の成功の礎になっているのは、収益性とコンプライアンスだ。これらは継続的な投資を呼び込み、事業を拡大し、持続性と企業価値を高めるために不可欠なものだ」とコメントしている。
■調査レポート
「Global Fintech: Prudence, Profits and Growth」
- 時価総額などの企業価値評価額÷年間の収益額 ↩︎