アクティビストに学ぶ投資家の視点――『BCGが読む経営の論点2025』から

2025年、アクティビストの活動は一層活発化すると予想される。かつての日本では、企業が感じる資本市場からの圧力は限定的なものだったのではないか。しかし昨今、日本を舞台とする投資家と企業、あるいは企業間の攻防を見れば、もはやどの企業も「他人ごと」として済ませられない。

BCGが読む経営の論点2025』(日本経済新聞出版)では、BCGのプライベート・エクイティ&プリンシパル・インベスターズグループのアジア・パシフィック地区リーダーである加来 一郎と、同グループの辻垣 元が、アクティビストとどう対峙し、その力をどう活用するべきかを考察している。単なる防衛にとどまらず、彼らの提案から資本市場の考え方を取り入れ、企業価値向上の糧とするには何が必要か。その一端を紹介する。

日本は世界で2番目にアクティビストが活発な市場

日本国内でアクティビストの活動が活発化している。振り返れば、2000年代は株式の持ち合い構造が強固だったこともあり、アクティビストと企業の対話はほとんど成立していなかったと言える。しかし、2010年頃から日本で活動するアクティビストファンドの数と株主提案件数は増え始め、2023年にはともに過去最高を記録した。日本は現在、米国に次いで世界で2番目にアクティビストが積極的に活動している市場となっている。

円安に加え、低PBR(株価純資産倍率)の企業が多く、相対的な割安感があることが背景にあるが、それ以外の要因もある。具体的には、日本では少数株主の権利が他国より手厚く保護されている。株主提案をするために必要な議決権の数や割合(300個、もしくは1%以上)が他国より少ないのがその一例だ。

今後も動きはさらに活発化

日本におけるアクティビストの活動は年々活発にはなっているが、それでも上場企業数に対する比率では米国と比べまだ少ない。外資系アクティビストにとって日本企業は時価総額が小さく小粒で魅力に乏しい、あるいは、言語の壁があり対話がしにくいといった事情が影響しているのだろう。  

これらを総合すると、今後の日本市場において、アクティビストの活動余地はまだ大きい。東京証券取引所の制度改革をきっかけに、足元では持ち合い株の解消も進んでいる。コーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コード(機関投資家向けの行動指針)の導入など一連の構造改革により、海外投資家は日本市場に参加しやすくなった。さらに、地政学的リスクの面で、アジアの投資先として中国から日本へのシフトも起こっている。今後さらに円安が続いたり、コロナ禍以後、好調を維持してきた株式相場の潮目が変わったりする可能性を勘案すると、日本でアクティビストの動きがさらに活発化することをどの企業も想定しておくべきだろう。

アクティビストの提案は企業価値向上のヒント

アクティビストのターゲットとなることは、経営者や従業員にとって不本意かもしれないが、そもそも売上成長、利益率改善、マルチプル(株価倍率、財務指標と株価との掛け目で、資本市場における評価の高さを示す)向上等、経営改善の余地がなければ、投資家のレーダーにひっかからない。むしろ、自社に成長のチャンスがある証として前向きに捉えて、現状の経営状況を見直してみることが大切だ。アクティビストの提案を受けて改善に取り組んだことで、結果的に中長期で成長が実現し、企業価値を向上させた企業も実際に存在する。

アクティビストが企業に提案する際には、時間とコストをかけて、企業価値を向上させるあらゆるレバーを徹底的に調べ上げていく。これは裏返せば、アクティビストが提案をしてくる前に、同じように現状を分析し先回りして手を打てば、企業価値が向上するだけでなく、強硬的なファンドにつけいる隙を与えずに済むということだ。

では具体的にどのようなことをすればいいのだろうか。本書では、アクティビストの提案、裏返せば企業が企業価値向上に向けて検討すべきポイントをレベル0~3の4段階に整理し、解説している。

株主価値向上に向けた施策の特定は「レベル1」にすぎない

レベル0は従来型のアクティビストの提案にもよく見られる、資産の有効活用や資本政策の変更だ。使途のない資産の売却、余剰キャッシュが積みあがっている場合は、配当の増額や自社株買いに充当するなど、資本コストを意識した資本政策が求められる。

続くレベル1は本丸の事業活動で株主価値の向上に資するレバーは何かを特定する段階だ。BCGでは株主にとっての包括的な価値向上を示すTSR(株主総利回り)を基軸に、TSR向上に貢献する要素を分解し、現状の戦略を整理して改善のための施策を探る手法を提唱している。図表はその考え方、および各施策のPBRとの関係性を示したものだ。アクティビストが企業を分析する際の枠組みも、基本的にこのアプローチと共通する視座を持つ。

TSR分析の枠組みとPBRの関係性

TSRはマルチプルの変化、利益成長、フリーキャッシュフロー改善に分解できる。図表を見て、利益成長とキャッシュフローには目を配ってきたが、マルチプルの変化には意識が及んでいないと気づく経営陣が多いはずだ。企業価値を高めるためには、マルチプルの構成要素を正しく理解し、うまく事業戦略に反映させることが肝となる。

また、利益成長について考える際も、メーカーならコスト削減、商社なら取引拡大や企業買収など、目の行きやすい領域に注力する傾向があるが、自社のフルポテンシャルを顕在化させるため、事業戦略や施策を包括的に検討することが重要となる。アクティビストと同じ物差しで自社の施策を俯瞰するレベル1は昨今、多くの日本企業に浸透しつつある。これからはその先のレベル2、3に踏み込むことが求められるだろう。

その年のビジネスを考えるうえで経営者が押さえておきたいトピックを、BCGのエキスパートが解説する『BCGが読む経営の論点』。最新刊では、日本企業が今後10年超にわたって持続的な成長を実現していくうえで経営者が優先的に考えるべき10の重要論点を提示する。第10章「アクティビストを超えて――より高次の株主価値創造を目指す」では、昨今のアクティビストの進化にも触れたうえで、アクティビストに先んじて動く、レベル2、3の企業とはどのような企業かを解説している(詳しくはこちら)。