日本の発酵文化とバイオものづくり――シニア・パートナー森田の眼

日本は温暖で湿度も高いが故に雑菌が多く、食物を放っておくと腐敗するので、昔から塩蔵や干物、燻製により保存食を作る文化があった。逆に言えば塩分濃度が高い、アルカリ性が高いなど厳しい環境下で生きていける発酵菌もうまく活用することで、食物をおいしくし、美容や健康を促進する発酵文化を独自に進化させてきた。

発酵食は地域の文化と強く紐付いており、その土地における昔の生活を今に伝える伝道師でもある。欧州でもしょうゆやみそ、日本酒を醸造する蔵が立ち上がり、有名レストランが発酵食を積極的に取り入れているように、土地を越え、文化を融合する媒介の役割を果たしている。その点で、日本の発酵は世界をリードする存在とも言える。

しかしながら、発酵の産業化、すなわち微生物などの力を使って製品を生産する技術「バイオものづくり」となると、他国と比べ大規模な成功事例が日本には少ないのが現状だ。特定の機能を高めた細胞「スマートセル」を開発する効率は機械学習によるシミュレーションにより飛躍的に高まったものの、大きな事業につながらず、研究開発の域を出ない。

今、バイオものづくりに求められているのは、研究開発起点ではなく、出口となる事業起点でエコシステムを組み立てることだ。ある機能を満たせば一定の量を買うことを需要家が約束することを発信できれば、それに向けた研究開発のための投資を引き出すことが容易になり、研究開発と事業の間にある「死の谷」を超えることもできるのではないか。

※本記事は、2024年9月10日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。