第7回 サーキュラーエコノミーで生まれる新市場 再生材の供給インフラを押さえよ

公開日 : 2026.07.16
著者 :
上田 郁哉(アソシエイト・ディレクター)

経済政策や企業経営における重要な論点として、「資源の確保」が語られる場面が増えている。自由貿易が当たり前だった10年ほど前には想像もできなかった状況だ。重要鉱物やナフサのように地政学リスクの文脈で論じられるものだけでなく、鉄やアルミニウム、銅などの身近な金属にまで重要性は広がっている。さまざまな打ち手が求められる中で、近年とりわけ存在感を増しているのが、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の強化である。

日本は資源の多くを輸入に依存する一方、国内で発生する金属スクラップは海外へ流れ、廃プラスチックの大半が、焼却によって出た熱を利用する「サーマルリサイクル」に回るなど、資源を十分に循環させられていない。こうした状況を受け、政府は2026年4月、「循環経済行動計画」を決定。2030年までに官民合わせて約1兆円を投じ、再生資源の供給サプライチェーンを強靭化する構想であり、企業の調達戦略や事業ポートフォリオにも影響を及ぼす。連載第7回では、この政策の全体像を整理し、企業に求められる対応について考える。

資源確保は事業継続を左右する経営課題へ

自由貿易が当たり前だった時代、調達とは「世界で最も安い供給源を探す」競争だった。しかし現在は「そもそも供給を断たれないか」という問いへと変わりつつある。資源確保は、コスト最適化の対象から、事業継続を左右する経営課題へと意味を変えた。この変化は、各国の政策にも明確に表れている。

欧州連合(EU)は2023年に制定した重要原材料法(CRMA)において、2030年までに年間必要量の25%を域内でのリサイクルで賄う目標を掲げ、永久磁石などにリサイクル関連の要件を課した。有用なスクラップの域外流出を抑え、資源循環を域内で完結させる狙いだ。関税ではなく、規制や基準を通じて資源を確保する、新たな産業政策といえる。

一方、中国は2024年10月、国有企業「中国資源循環集団」を設立した。鉄スクラップや非鉄金属、電気自動車(EV)の使用済み電池、廃プラスチックなど多岐にわたる事業を国が一元的に管理し、国内に蓄積された二次資源を回収・統合する体制を構築している。一次資源であるレアアースの輸出規制のように、二次資源もまた、地政学上の交渉材料となり得ることを、日本企業は認識しておく必要がある。

サーキュラーエコノミーとは、単なるリサイクルではない。リサイクルが「使い終えたものを回収し、再資源化する」というバリューチェーン上の一工程を指すのに対し、サーキュラーエコノミーは、設計、製造、利用、排出、回収、再資源化、そして原料としての再投入までを含む、資源循環全体の仕組みを対象としている。

その出発点となるのが、「設計」だ。製品をどのように設計すれば回収・再資源化しやすくなるのか。長く使ってもらい、使用後にいかに確実に回収できるのか。こうした視点から循環の仕組み全体を設計することが重要である。「点」としてのリサイクルではなく、資源が循環する「ループ」そのものをいかにデザインするかが問われている。

三層の供給インフラで再生材のサプライチェーンを築く

2026年4月に策定された「循環経済行動計画」は、再生材の供給サプライチェーン構築に向け、数多くの施策で構成されている。一見すると個別施策をまとめたものにも見えるが、全体像を見ると、国内に「三層の供給インフラ」を築こうとする一貫した構造が浮かび上がる(図表1)。

循環経済行動計画が築く三層の供給インフラを示した図表。回収インフラ、再生インフラ、市場インフラで構成されている

第一の層は、使用済み製品や資源を集める「回収インフラ」である。社会のあちこちに散在する使用済みの資源を、量と質を維持したまま回収・選別する機能を担う。前処理や保管、再資源化の拠点を整備するとともに、回収ネットワークを構築し、金属スクラップなど有用な資源の海外流出を防ぐことも重要な役割だ。どれほど高度な再生技術があっても、原料となる資源が集まらなければ循環は始まらない。この層は、循環全体の「入口」にあたる。

第二の層は、集めた資源を使える形へと転換する「再生インフラ」である。回収した資源を製造業が求める品質・規格に合わせて選別し、再生材として利用できる水準で再資源化する。そのために、高度リサイクル施設の整備や品質確保に向けた技術実証が進められる。官民合わせて約1兆円の投資もこの層を中心に展開される。

第三の層は、再生材の利用を促す「市場インフラ」である。質の高い再生材を供給できても、買い手がいなければ循環は成り立たない。そのため、再生材が積極的に選ばれる市場を形成し、安定した需要を創出することが重要となる。具体的には、再生材の利用割合について段階的な数値目標を設定することに加え、補助金などのインセンティブの付与、品質や由来を証明するトレーサビリティ基盤の整備、さらには公共調達における優先利用などが考えられる。こうした仕組みにより循環の「出口」を確立することで、回収・再生インフラへの投資も後押しされる。

この三層がそろって初めて、資源を回収し、再生し、再び利用する循環の仕組みが、一つの供給インフラとして機能する(図表2)。循環経済行動計画の中にある「メタルリサイクル推進戦略」では、鉄、アルミニウム、銅、永久磁石の四つの金属について、2030年までの需要に占める再生材の割合などの供給目標を掲げている。これは単なる数値目標ではなく、需要側の「市場インフラ」を動かす起点として設定されている。供給目標を掲げることで、市場における将来の需要を見通せるようになり、金属スクラップの回収体制の整備や、大規模な産業利用に向けた技術開発への投資が促進される。こうした動きの連鎖で、三層の供給インフラ全体が機能し始めるのである。

政府による再生材市場形成の方向性を示した図表。製造業から消費者、資源循環業者の間で市場を形成し、日本をハブとする国際資源循環ネットワークを構築する
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