米欧中で大きくばらつくEV普及 日系OEMはリスク分散の戦略を

公開日 : 2026.07.09

数年前まで、自動車業界においてEVの普及はグローバルな共通トレンドであり、「すべての主要市場で加速していく」という単一のシナリオが描かれていた。だが現在、米欧中の主要市場でEVの普及状況は大きく異なり、地域ごとに異なる様相を示している。各国のEV普及の現状と、日系OEM(完成車メーカー)がどのような戦略を取るべきかを考察する。

米国でのEV普及はトランプ政権への移行で低迷している

BCGは、2030年にはグローバルで電気自動車(EV)が新車販売の33%まで浸透し、2035年には55%に達すると予測している。しかし、2022年時点では、2030年には39%、2035年には59%になると予測しており、当時の見立てよりもEV普及は遅れている。さらに地域別で見ると、程度の差はあれ米欧中すべての市場でEV普及が加速する見立てだったが、現在の地域別のシェアを見ると、中国が61%、欧州が18%、そして米国は想定をはるかに下回る8%と大きくばらついている(図表1)。

EV販売台数と、米欧中の各地域のシェアを示した図表。現在のEV普及の様相は地域により異なる

米国で EVが失速した背景には、トランプ政権への移行がある。バイデン前政権下では、補助金と温暖化ガス排出規制を両輪に、EV普及を政策主導で加速させようとしていた。だが、トランプ政権下に移行し、EV購入時の補助金が打ち切られると消費者の需要が失速。企業別に平均燃費目標を定める「CAFE規制」の緩和や、2030年までにEV比率を5割とする目標の撤回などにより、メーカー側のインセンティブも薄れた。こうした政策の転換を背景に、米国におけるEV普及の減速が一気に進み、各企業は戦略の見直しを迫られている。

欧州では、ドイツでEV購入の補助金が打ち切られるなどして、2023~2024年にかけて一時的にマイナス成長となった。だが2025年には上昇基調に回復し、2030年に向けてもさらなる成長が見込まれる。2050年までに温暖化ガス排出を実質ゼロにする目標に向けてEVの普及を推進する方向性は変わらないものの、制度運用を見直して現実的な内容に補正し、今後は産業競争力や需要の減速を踏まえて柔軟に対応していくとみられる。

中国という「別次元」の現実

一方、米欧と全く異なる様相を示しているのが中国だ。2025年時点で、EVが38%、プラグインハイブリッド車(PHEV)が14%と、新エネルギー車(NEV)が5割超を占めている。2030年には、その比率が8割近くに達する見通しだ。台数ベースだと、2025年にすでにEVとPHEVが合計1,290万台売れており、2030年には2,000万台を超える可能性がある。

中国では、こうした「規模の経済」によってサプライチェーンが大きく形成され、サプライヤーの競争力がどんどん高まっている。この好循環を繰り返すことでコスト優位性を確立し、強力な武器になっているのである。また、伝統的なOEMだけでなく、BYDなどの新興メーカーや、Xiaomiのようなスマートフォンメーカーが自動車業界に参入する事例が多いのも特徴的だ。新たなプレイヤーが加わり、それを支えるエコシステムが形成されることで、イノベーションの観点でも競争が進み、市場の進化を促している。

技術面の進化にも注目すべきだ。BYDは2025年3月、2020年に発表したEVなど向けのリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池「刀片電池(ブレードバッテリー)」と急速充電技術「フラッシュチャージ」を刷新した。わずか5分の充電で400~500キロの走行が可能になり、電池の残量が10%から満充電の97%まで約9分、マイナス30度の低温環境でも20%から97%まで約12分で充電できるという。かつてEVの弱点とされた充電時間と低温環境への対応は進みつつある。

日本のEV普及は「萌芽期」

こうした中国の「別次元」とも言える急進とは対照的に、日本はまだ「萌芽期」にある(図表2)。EVの新車販売比率は2025年時点でも1%台にとどまっており、米欧中の主要市場との差は際立って大きい。

国別のEV普及度合いを示した図表。日本は「萌芽期」に分類されている

普及が進まない背景には、充電インフラの整備が遅れていることと、消費者の受容性という二つの課題がある。公共充電器の整備は都市部に偏り、集合住宅が多い日本では自宅充電の環境が整いにくい。商品面では、消費者の選択肢となるEVのラインナップがいまだ限定的な一方、日本が世界最高水準の技術を持つハイブリッド車(HEV)は、燃費性能・価格・使い勝手のいずれにおいても消費者に高く受け入れられており、「わざわざEVに乗り換える必然性を感じない」という心理的障壁も根強い。日本市場が本格的な成長段階へと移行するには、インフラ整備の加速と、消費者が手に入れやすく使いやすいEV商品の拡充が鍵となる。

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