米欧中で大きくばらつくEV普及 日系OEMはリスク分散の戦略を

公開日 : 2026.07.09

米欧中の今後の展望

では、米欧中のEV市場は今後どうなるのか。

米国は、足元では停滞しているものの、2030年に向けては再び成長軌道に戻る見通しだ。今後2~3年で次世代EVの登場が予定されており、モデルラインナップの拡充を背景に、普及はじわじわ進んでいくと予想される。

一方で、普及の足かせとなっているのが価格帯の偏りである。米国の新車平均購入価格である約4.5万ドル以下のボリュームゾーンではEVの選択肢が依然として限定的であり、普及の中心となるエントリー層への供給が不足している。一方、6万ドル超の高価格帯ではEVモデルが豊富で、一部では供給過多も見られる。

こうした中、HEVは高い需要を維持している。OEMにとっては収益性を確保しながら電動化を推進できる選択肢であり、消費者にとっても経済性と環境性能を両立できることから支持を集めている。特に米国の走行環境との親和性が高く、今後も市場拡大が続くと予想される。EVの魅力が十分に浸透していない現状では、HEVが電動化の主役として成長を牽引すると考えられる。

欧州は、規制面において、欧州連合(EU)が2035年までに新車販売をCO2ゼロ・エミッション車100%とする目標を90%に引き下げ、条件付きで内燃機関(ICE)の存続を認める方向へと軌道修正した。ただ、これはEV普及を断念したのではなく、普及の実態や市場環境を踏まえ、より現実的な移行ペースへ調整したものと捉えるべきである。

今後のEVの普及ペースは、規制の強度によって左右される可能性がある。ベースケースでは、消費者需要など市場要因だけでも一定の成長が見込まれる一方、追加的な規制強化が加われば、さらなる普及加速も期待できる。消費者の需要動向に加え、OEM各社の戦略、充電インフラの整備状況などが重要な要因となる。

中国は、現状では勢いが最も強い一方、「初期需要が一巡したのでは」「継続的なイノベーションはそこまで進まないのでは」という声もあり、成長の持続と鈍化のいずれのシナリオも考えられる。供給過多によって輸出が増え、収益性が悪化することで企業の再編圧力が高まる可能性もあり、注視が必要だ。

政策面でも転換点を迎えている。補助金による需要促進のフェーズから、税制優遇や、政府が自動車メーカーに新エネルギー車の性能に応じたポイントを与える制度など、規制によるEV推進へと移行しつつある。また、海外への輸出もポイントだ。2025年の輸出台数は700万台へと達し、そのうち37パーセントが新エネルギー車だった。これは、中国メーカーの競争力が、中国国内に閉じた話ではなくなってきている構造を示している。

内燃機関・ハイブリッド需要の長期化による二重投資の課題

欧米におけるEV普及の減速や規制緩和により、従来の想定よりも、内燃機関・ハイブリッドの需要が長期間にわたり維持される見通しとなった。しかし、これはOEMにとって必ずしも「猶予期間が延びた」というメリットばかりではない。内燃機関・ハイブリッドの需要に対応するための商品開発やラインナップ拡充が引き続き必要となる一方、中国メーカーや米テスラなどの先行プレイヤーはEV開発のペースを緩めておらず、伝統的OEMも技術力や商品競争力の面で後れを取らないための継続的な投資が求められる。

また、ソフトウエアの更新でクルマの性能を高める「ソフトウエア定義車両(SDV)」も重要な競争軸となっている。BYDやテスラなどのEV専業メーカーが、EVを前提とした先進的な設計アプローチで開発を進めている一方、伝統的OEMは内燃機関・ハイブリッドに対応した従来のアプローチを取りつつ、次世代車両に向けたアーキテクチャへの移行も並行して求められる。

日本メーカーに必要な戦略

こうした現状を踏まえ、日本メーカーには、内燃機関・ハイブリッド、EV、SDVといった複数の選択肢を保持する全方位戦略が現実的に求められる。EVの普及シナリオが当初の想定から大きく変化した近年の市場動向は、リスク分散の重要性を示しており、いずれか一つに戦略を絞り込むことは、経営上のリスクがあまりに大きい。一方で、すべての領域に等しく経営資源を投入することは難しいため、自社が勝つべき市場や競争環境などを踏まえて明確な優先順位を付けることが不可欠となる。

また、今後の競争力を分ける要素として、「スピード」の重要性も高まっている。中国メーカーやテスラはハードウエア・ソフトウエアの開発サイクルを大幅に短縮しており、伝統的OEMにも開発サイクルの短縮や実行力の強化が求められる。

さらに、EVとSDVが競争力の中核となる中、ソフトウエア開発力やシステムインテグレーション能力の向上も重要な課題だ。ただ、これらを短期間で内製化することは容易ではないため、サプライヤーやテック企業、スタートアップ、アライアンスパートナーとの連携を通じたエコシステムの構築が鍵となる。

EV・SDV時代の競争を勝ち抜くためには、技術開発だけでなく、開発プロセスや組織運営の変革を通じてスピードと実行力を高めることが必要だ。その実現に向けては、生成AIを活用した開発効率化やソフトウエア開発の高度化を進め、限られた人材・経営資源の生産性を最大化させることが重要なポイントとなる。

滝澤 琢
マネージング・ディレクター & パートナー

東京大学法学部卒業。トヨタ自動車株式会社を経て2010年にBCGに入社。BCG産業財・自動車グループの日本リーダー。名古屋オフィス代表。
自動車 (OEM・部品)をはじめとした産業財、ハイテクなどの業界を中心に、事業戦略、事業再構築、デジタルトランスフォーメーション、ガバナンス体制構築支援等のプロジェクトを手掛けている。

東京大学法学部卒業。トヨタ自動車株式会社を経て2010年にBCGに入社。BCG産業財・自動車グループの日本リーダー。名古屋オフィス代表。
自動車 (OEM・部品)をはじめとした産業財、ハイテクなどの業界を中心に、事業戦略、事業再構築、デジタルトランスフォーメーション、ガバナンス体制構築支援等のプロジェクトを手掛けている。

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