第8回 「バイブコーディング」がソフト開発を一変させる

世界の皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは。BCG Xの高柳です。今回は「AIエージェントの活用 Vibe Coding(バイブコーディング)編」というテーマで、ソフトウェア開発の現場で注目を集め始めているバイブコーディングについて、基本から活用例、実際に試してみた結果、そして今後の展望までをお話しします。
①バイブコーディングは、ソフト開発者の“Vibe”(雰囲気、感覚)を汲み取ってコードを自動生成する手法
②AIエージェントと会話する感覚でソフト開発ができ、生産性が大幅に向上
③プログラミングを知らない人でも指示を出せるので、誰もがアイデアを形にできる未来がやってくる
バイブコーディングって何?
バイブコーディングとは、AIエージェントを使ってソフトウェア開発を行う新しい手法を指します。明確な仕様や設計書がなくても、「こんな感じのアプリが作りたい」「この部分をもっと使いやすくしたい」といった開発者の“Vibe”(雰囲気、感覚)をAIエージェントが汲み取り、コードを生成し、アプリケーションを形にしてくれる、そんなソフトウェア開発のスタイルです。用語自体はAI界隈で著名な研究者であるアンドレイ・カーパシー(Andrej Karpathey)氏によって、つい最近の2025年2月に提唱されました。
生成AI誕生以前のプログラミングでは、開発者が自分で一行ずつコードを書く必要があり、さらに生成AIを使ったコード生成でも具体的な指示に基づいてコードの断片(スニペット)だけを生成することが多かったのに対し、バイブコーディングはまるでAIエージェントと会話するような感覚でソフトウェア開発が行えます。より広範な開発の背景や文脈、また開発者の漠然としたイメージをAIエージェントが理解しようと試み、プロジェクト全体の構造や機能に踏み込んだ提案・実装、そして実行やテストまでしてくれる点が特徴と言えるでしょう。
このようにバイブコーディングの魅力は、開発者が直感や「雰囲気」を重視して進められる点にあります。AIエージェントが開発者の意図を汲み取り、適切なコードを提案してくれるので、効率がぐんと上がります。
ビジネスでのユースケースは?
バイブコーディングは未来の話ではなく、すでに利用可能な価値ある手段です。開発の生産性を爆発的に高められるため、スタートアップから大企業までこぞって活用し始めており、すでに次のような“ご利益”を享受しています。
- 新規事業やサービス開発サイクルのスピードアップ
- 「こんな機能があったら面白いかも」というアイデアを、AIエージェントがすぐに検証可能な形(プロトタイプ)として提示
- 市場の反応に基づき、即座に改善できる
- 少人数で大きなプロジェクトを推進
- 開発の生産性が爆発的に高まるため、小さなチームで大規模な開発が可能に
- (10人チームで100人分の仕事をするイメージ。全員が10倍の生産性を持つ“10×エンジニア”になれる!)
- プログラミングを知らない人が開発を担当
- 自然言語で指示を出せばいいので、ビジネス担当者やデザイナーなど、非エンジニアでも開発が可能
- 部門間の連携強化や、より多様な視点を取り入れた開発が進む
実際にやってみた
私も普段はCursorというAIエージェント搭載のソフトウェア開発ツールを使っており、その恩恵にあずかっています。開発の雰囲気を示したのが、以下の動画です。「TypeScriptで落ちゲー的なパズルゲーム作って。見た目は市販のゲーム(テトリスとか)と異なるようにして。シンプルなゲームにして」と指示するだけで、あっという間にプロトタイプを完成させてくれました。
どうです?すごくないですか?
日々実際に使っていると、曖昧な指示でも意図を汲み取ってくれる精度の高さに驚きます。その一方で、やはり指示の出し方にはコツがいるところは生成AIと同じです(裏側が生成AIなので……)。あまり漠然としすぎていると、AIもどう動けばいいか迷ってしまうし、意図を読み違って見当はずれな動作をすることもしばしばです(私の指示言語化能力はさておき……)。
また、当然ながら完成されたソフトウェアが本当に期待された動作をするのか、セキュリティ上の問題はないかといった最終的なチェックと責任を負うのは、人間の仕事です。AIはあくまで強力なアシスタントであり、すべてを丸投げできるわけではない、というのが現状でしょう。
エンジニアの役割はAIエージェントのマネジメントに変化
バイブコーディングは、「いま価値を出せる手法」として広く使われて行きながら、ソフトウェア開発全体は以下のような方向で進化していくでしょう。
- 開発プロセスのアジャイル化が加速
- リアルタイムのフィードバックを活用することで、従来のウォーターフォール型の開発プロセスから、よりアジャイルで柔軟な開発体制へのシフトが加速する
- プロジェクトの失敗リスクを低減しつつ、迅速な市場投入・改善が進む
- エンジニアの役割が、マネジメントの方向へ変化
- コードを書くことから、AIエージェントに対して的確な指示を与える役割へ変わる
- AIエージェントの仕事の評価・修正・統合を行うさらに上位の仕組みを設計したり、管理する立場に変わる
これからも、バイブコーディングは技術革新と共に進化し、プログラミングの世界に新たな風を吹かせることでしょう。技術者だけでなく、ビジネスリーダーにも注目される分野として、今後の動向に大いに期待したいと思います。バイブコーディングによって、経験豊富なプログラマーと一緒に開発を進めるような感覚で、より速く、より創造的に、誰もがアイデアを形にできる未来が近づいているのかもしれません。
以上、今回はバイブコーディングの世界をのぞいてみました。実際に使ってみてかなり衝撃的だったので、思わず記事にしてしまいました。皆さんもぜひ試してみてくださいね。次回もお楽しみに、Catch you lator!

高柳 慎一
ボストン コンサルティング グループ
BCG X プリンシパル
北海道大学理学部卒業。同大学大学院理学研究科修了。総合研究大学院大学複合科学研究科統計科学専攻博士課程修了。博士(統計科学)。株式会社リクルートコミュニケーションズ、LINE株式会社、株式会社ユーザベースなどを経て現在に至る。デジタル専門組織BCG Xにおける、生成AIを含むAIと統計科学のエキスパート。