ウクライナ、イスラエル、日本のアーティストが語る文化資源の可能性――大阪・関西万博「テーマウィーク」講演レポート

共通性を見つめ、文化資源を未来へつなげる

パティルさんは、竹村さんの作品における器という対象と、自身の作品における女性という存在の「脆弱性」に注目し、「脆弱性のあるものを修復し光を当てることは、戦争や破壊に対する反抗を示すことにつながる」と指摘した。

また、各々の創作活動を踏まえ「共通性」の重要さを強調した。「私はドキュメンタリー作品によって人々が直面する現実を映し出そうとし、スリヴィンスキーさんは象徴的な言葉=メタファー(比喩)を使って人々の目に映る世界を描き出している。これは偶然の一致ではないだろう。私は多くのストーリーを重ねることでそこに共通する意味、『人間性』を見出すことに関心がある。分断する世界で、私たちは共通性を考えなければいけない。それをもとに未来に目を向けなければ、政治的なゲームに取り込まれてしまう」と警鐘を鳴らす。

登壇者の作品との共通点について語るルース・パティルさん

スリヴィンスキーさんは「未来を見据えて記録をアーカイブすることは、どうして重要なのか?」というキャンベルさんからの問いかけに、『戦争語彙集』が果たす役割をもって答えた。「『戦争語彙集』の意義は2つある。まずはこの本をまとめることで、届かなかったかもしれない人々の声が世界に届いたということ。次に、エビデンスという意義。この本はいずれ裁判が開かれたときに、戦争犯罪の証拠になるだろう」。キャンベルさんは「戦争が終了したとしても、人々の心に平和が訪れるわけではない。『私たちは何をしたのか/されたのか』を『語ること/語らないこと』によって、次の暴力へのサイクルは大きく変化する」とうなずいた。

「歴史文化の継承と発展について思いを一つにできた」と振り返るロバート・キャンベルさん

キャンベルさんは「今回の万博のテーマである『いのち輝く未来社会』に文化資源をどうつなげていくか。とても重い題材ではあったが、文化資源と渡り合い、人々のアイデンティティを表現することを共に考え、歴史文化の継承と展開について思いを一つにできた」とセッションを振り返った。

テーマウィークの運営に携わったBCGのシンクタンク「BCGヘンダーソン研究所(BHI)」の日本リーダーを務める苅田 修は「ウクライナ、イスラエル、日本というそれぞれに困難な経験を抱える地域のアーティストが集まり、言葉、映像、絹糸という異なるアプローチから文化の普遍性について語り合えた素晴らしいセッションだった」と話す。

各セッションの様子は、テーマウィーク公式ウェブサイトでアーカイブ配信を予定している。

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