第7回 次世代のビジネス革命? AIエージェントとは

世界の皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは。BCG Xの高柳です。ここ半年ほど、「AIエージェント」という言葉が注目を集めています。今回はその技術的な仕組みや、実際にビジネス活用を考えるうえで押さえておきたいポイントを解説します。
生成AIの次なるトレンド、AIエージェント
まだ明確な定義があるわけではありませんが、AIエージェントとは一言でいうと「目的を持って自律的に動作するAI」です。AIエージェントの概念自体は昔からあるものですが、生成AIの持つ高い「計画(Plan)」能力(後述します)を活かして実用レベルになってきたこともあり、生成AIの次なるトレンドともいわれています。
AIチャットボット(自動応答システム)を含め、これまでのITシステムが「事前に設定されたルール通りに、受動的に動作する」のに対し、AIエージェントは「目的に応じて環境から能動的に情報を集め(Observe)、自らの行動を計画し(Plan)、計画に沿って実際に動作する(Act)」点で大きく異なります。従来であれば人が介在していたプロセスが省略され、自動化によって効率も向上することから、働き方を変革する重要な技術と考えられています。
AIエージェントの仕組み
では、AIエージェントの仕組みはどうなっているのでしょうか? ざっくりいうと、まず環境を観察し(Observe)、行動の計画を立て(Plan)、それから実際に行動する(Act)という「観察-計画-行動(Observe-Plan-Act)」のサイクルがあり、これを繰り返すことで動作します(図表1)。

「観察」の段階では、ユーザーの入力、システムデータ、センサー情報から環境を把握します。収集した情報を基に、大規模言語モデル(LLM)、つまり生成AIを使って最適な行動を立案するのが「計画」。この計画に従って他のエージェントと連携したり、ツールを活用したり、ロボットなどのデバイスを通じて物理的な動作を行ったりするのが「行動」です。
例えば、顧客へのEメール送信をAIエージェントに任せるとしましょう。AIエージェントは顧客とのこれまでのやりとりを分析して情報を得て、それに基づいて最適な内容や送信のタイミングを検討し、メールを送信する、といった流れで動きます。
AIエージェント市場は急成長
AIエージェントは、マーケティングや顧客対応、研究開発の現場を中心に、すでにさまざまな企業で活用されはじめており、業務プロセスの自動化の範囲を広げています。
代表的な例はカスタマーサービスです。ある銀行ではAIエージェントを導入し、すでに顧客対応のコストを10分の1に削減した事例があります。顧客の問い合わせに対し、今までのAIチャットボットであれば回答を提示することしかできなかったところ、AIエージェントは顧客に代わって変更手続きや送金などの処理まで実施します。また、AIエージェントだけでは解決できない問題に関しては人間へ処理を移譲するなど、“頭のきれる部下”のごとく的確に判断し、オペレーターの負担を軽減できるのです。
BCGの分析でも、AIエージェント市場は今後5年間で年平均成長率45%のペースで急成長し、2030年には約520億ドルに達すると予測しています(図表2)。

「エージェント型」と「ワークフロー型」
大規模言語モデルClaudeの開発元で有名なAnthropicによると、AIエージェントを活用したシステム(Agentic System)は大きく分けて、「大規模言語モデルが全体のプロセスまで検討するエージェント型」と「所定のプロセスに従って動作するワークフロー型」の2つに分類できます1。
「所定のプロセスに従って動作する」というと、ワークフロー型は能動的ではないのでは?と感じられるかもしれませんが、あくまで全体の流れ(プロセス)が決められているだけで、その各ステップでは「観察-計画-行動」を行います。
例えば、問い合わせ対応を自動化するワークフローを考えてみましょう。
①ユーザーからの問い合わせ内容を要約する。
②返信メールを作成する。
③メールを送信する。
①→②→③の流れ自体は決まっていますが、AIは①のステップで「問い合わせ文を読み取り、要点を抽出する」(観察・計画)、②のステップで「返信文面を生成する」(計画・行動)といった処理を実行します。ステップ同士を飛び越えて勝手に新しいタスクを始めたりはせず、定められた範囲内で自律的に動作しているわけです。
従来のシステムではただのキーワード抽出や定型文の送信にとどまることが多かったのに比べ、生成AIを活用することによって、より柔軟に文章を理解し、自然な文章を生成できるのが「ワークフロー型のAIエージェント」の大きな違いです。

AIエージェントの導入は「ワークフロー型」からが理想的
複数のツールやシステムと連携できるのがAIエージェントの強みではあるものの、実際に導入する際には、いきなり高度なエージェント型で導入を進めることはおすすめしません。まずは、あらかじめ定められた手順通りに処理を自動化する仕組み、すなわちワークフロー型の実装から始めるのが良いと私は考えています。その理由は以下の通りです。
- 開発コストが低い: 複雑なAIモデルを構築するよりも、シンプルであり安価
- 運用・管理が容易: モジュール化し、自動化の範囲を絞ることで、AIの判断ミスによる影響を抑え、安全な運用・リスク管理が可能
したがって、まずは“素うどん”に相当するLLMのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)などシンプルな仕組みを用いて、定められた手順通りに動作するワークフロー型でシステムを組み立てましょう。定型的な業務の自動化であれば、ここまででも十分に効果を発揮させられます。
その後、AIの進展にあわせてAIエージェントに任せる範囲を拡大させたり、AIエージェントだけで全体の業務プロセスを回せる見通しが立てば、プラスαの機能やシステムを“トッピング”してエージェント型に移行したりすることで、投資対効果の面でも開発の面でもスムーズな導入となるでしょう。
AIエージェントは、これまでのAIツール以上に賢く柔軟な振る舞いを実現することが期待されています。単なる自動化ツールではなく、学習を通じて環境に適応して進化する「デジタルパートナー」という方が近いでしょう。現時点では課題も多いものの、実証実験やプロトタイプを通じて有望視されており、AIエージェント技術はまさに黎明期から成長期へ差し掛かった段階といえます。次回もお楽しみに、Catch you later!
- Anthropicウェブサイト「Building effective agents」(2024年12月) ↩︎

高柳 慎一
ボストン コンサルティング グループ
BCG X プリンシパル
北海道大学理学部卒業。同大学大学院理学研究科修了。総合研究大学院大学複合科学研究科統計科学専攻博士課程修了。博士(統計科学)。株式会社リクルートコミュニケーションズ、LINE株式会社、株式会社ユーザベースなどを経て現在に至る。デジタル専門組織BCG Xにおける、生成AIを含むAIと統計科学のエキスパート。