森林破壊とパンデミック――シニア・パートナー森田の眼

森林は見えないネットワークで結ばれているらしい。木の根と、それにつく菌糸体はつながっていて、栄養だけでなく、外的な変化への警戒信号までやり取りすることもあると言われている。また、森林は周囲の生態系の環境をつかさどることで、他の動植物と密接につながっている。
一方で、森林にはつながりを絶つ役割もある。感染症の発生源であるウイルスや動物と人との「壁」になってきた。しかし、1分間に東京ドーム2個分も進むとも言われる急速な森林破壊により、その役割が果たせなくなっている。実際、森林破壊の多いアフリカや南米で感染症が増加しているという。森林破壊は新たなパンデミック(世界的大流行)を引き起こすきっかけとなり得るのだ。
さらに、森林破壊は、食物を必要とする野生動物を人間世界に押しやってしまう。また、森林破壊による温暖化は、病原菌を運ぶ昆虫を繁殖させるだけではない。猛暑と干ばつにより屋外で水を貯蔵する人が増えるので、蚊にとって格好の産卵場所となる。以前は寒かった北米、ヨーロッパ、東アジアでも蚊が増えることで感染が拡大しやすくなる。
森林が破壊されればされるほど、未知のウイルスと遭遇し、パンデミックが起こる可能性が高まる。それに対し、森林破壊を食い止めることはもちろん重要なことだが、その代わりに安易に植林するだけでは、気候変動に対して一定の効果があったとしても、森林の果たしてきた「つながる役割」と「つながりを絶つ役割」を元通りに回復することはできない。
※本記事は、2025年1月24日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。