世界M&A市場は回復の見通し デジタル化目的の取引が拡大――BCG調査

2024年の世界のM&A市場は、2023年の低迷から回復の兆しを見せた。依然として低迷前の水準には達していないが、着実に回復の道を進んでいる。世界と日本のM&A市場について、1980年から2024年9月に公表された100万件近くのデータに基づいて分析したBCGの「2024 M&A Report」から解説する。

世界のM&A市場は地域間で取引量にばらつき

2024年の世界のM&A市場は、第1四半期(1~3月)は緩やかな回復で始まり、第2四半期(4~6月)は停滞、そして第3四半期(7~9月)は平均的な水準に戻った。2024年1~9月の累計は、取引総額ベースで前年同期比10%増の約1兆6,000億ドル(図表)で、案件数は約22,400件だった。政治やマクロ経済の不安定さなどを警戒し、買収側企業の多くが慎重な姿勢を示した。

世界のM&A市場の取引総額と案件数の推移を示したグラフ。2024年1~9月は回復の兆しを見せた

取引量は地域によってばらつきがあった。北米や欧州が回復傾向だった一方、アジア太平洋地域では、中国が取引総額ベースで前年同期比41%減と大きく落ち込んだ影響で、10年ぶりの低水準となった。ただ、マレーシアやインド、シンガポールは堅調に回復し、日本も取引総額ベースで前年同期比37%増と、好調な国もあった。世界全体の傾向では、ヘルスケア、テクノロジー、エネルギー業界でM&Aが活発化する兆しがみられた。

一方、取引価額100億ドル以上の大型案件は減少傾向が続き、2024年1~9月期に報告されたのは17件のみで、前年同期の20件から減少した。

M&A案件の40%以上が遅延

米国や欧州など主要市場でM&Aに対する規制が強化されたことや、2024年は米国をはじめ、選挙の開催が多かったことから政策や規制の動向に対する不透明感が強く、M&Aのスケジュールが長期化した。BCGの分析では、取引の40%以上が当初予定していたスケジュールでM&Aを完了できず、遅延した案件のうち63%は少なくとも3カ月以上の追加期間を要したことがわかった。特に大型の案件ほど影響を受けやすい傾向がある。

2025年に向けて世界のM&A市場の回復は加速する見通し

政治的な見通しが明確になりつつあるほか、多くの企業が健全な財務状況にあることが、M&A市場を後押しすると考えられる。プライベート・エクイティのドライパウダー(投資先未定の待機資金)も、2024年9月末時点で過去最高の2兆1000億ドルに達した。これらと金利の低下が相まって、取引の勢いを加速させる可能性がある。長期的に見ると、環境関連取引(グリーンM&A)の推進や、AIを含む最新テクノロジーへのアクセスを得るなどデジタル化を目的とした取引の拡大が、市場の回復を後押しするだろう。

BCG東京オフィスでM&A分野を担当しているマネージング・ディレクター&パートナーの横瀧 崇は次のようにコメントしている。「日本のM&A市場は世界の市場と異なり、案件数で過去最高水準に到達する見込みだ。背景には、多くの業界で新たな収益源となる事業を開拓するための買収や、海外展開を再び加速させる動きが活発化してきたことがある。また、世界のM&A市場が活況でないことから、買収競争が通常よりも落ち着いており、日本企業にとってはグローバルの良好なアセットを獲得する絶好の機会だ。

さらに、2023年8月に経済産業省が発表したガイドライン『企業買収における行動指針』により、攻めの姿勢でM&Aを仕掛ける企業は、市場競争でリードできるチャンスが増えた。一方、上場企業は常に買収提案を受ける可能性を抱えており、自社を守る態勢も求められている。このような状況で、企業はいかに早くM&Aケイパビリティーを構築するかが、今後の成長を加速するポイントになるだろう」

■ 調査レポート「2024 M&A Report」

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