『BCGの育つ力・育てる力』 成長を加速・持続させる3つの方程式

2015年に刊行されロングセラーとなっている 『BCGの特訓 成長し続ける人材を生む徒弟制』 (木村 亮示木山 聡 著)が増補改訂され、『BCGの育つ力・育てる力』 (日経文庫)として2024年10月26日に発売された。

BCGでは業務の特性から、多様な人材を“超高速”で戦力化することが求められる。そのために組織として培ってきた人材開発の考え方と実践方法の言語化を試みたのが原著だ。

今回、2つの論考を加筆した。

ひとつは、育てる側であるミドル層自身の経営幹部への成長に向けて、新たに「第5章 育てる人も育つには」を設け、組織を動かすリーダーへと進化するために意識すべきことを論じた。

もうひとつは、この10年近くの働く環境のさまざまな変化が育て方・育ち方に与える影響の中から、①時短化、②リモートワークの浸透、③人材の多様性の広がり、④デジタル/ AIの進化と普及、を取り上げ補論で考察した。

本書では「育つ」「育てる」のベースとなる考え方を、単純化した3つの方程式の形で解説しており、ここではそのエッセンスを紹介する。

ハウツースキルを集めるだけでは成長しない

エクセルなどを使った分析、ロジカルシンキング、プレゼンテーションスキル、ネゴシエーションスキル、グラフィカルな表現のしかた……。多くのビジネス書やセミナーで解説されるこうしたハウツースキルを身につけることも重要だが、これらを集めるだけでは成長できない。ビジネス・パフォーマンスを上げていくには、この種のハードスキルとは別に、「必要な問題を正しく設定し、それを解く能力」「結論に基づいて人に動いてもらう力」などのソフトスキルが必須だ。こうした力を身につけるための考え方を示したのが、成長の方程式①②だ。

さらに今回加筆した第5章では、ミドル層が一段上のリーダーへと進化するための成長の方程式③を示した。以下、順に見ていこう。

成長の方程式① マインドセット(基本姿勢)+スキル

ビジネスでの成果につなげるには、個別スキルを集めることに専心するのではなく、その「使い方」を身につけることが不可欠だ。これは、ひたすら経験により実践を重ね、磨いていかない限り身につかないため、簡単ではない。

そこで重要になるのが「マインドセット」である。著者らの観察によれば、成長に必要なマインドセットには主に3つの要素がある(図1)。

ひとつは、「他者への貢献に対する強い想い」だ。逆説的ではあるが、主たる動機が「自分自身の成長」である人は、十分な成長が見られない傾向がある。「クライアントの役に立てるようになるために成長したい」といった気持ちが、もっとも強い成長の原動力となる。

成長には3つのマインドセットが必要

2つ目は「折れない心」だ。できるかできないか不明な状況でも足を止めず、あきらめずにやってみないと成長できない。

3つ目は「原因自分論を持てる素直さ」である。壁にぶつかったとき、上司や同僚、組織体制など他人や環境に原因を求めると、成長が止まってしまう。長期的に成長し成功する人には、「自分に原因があるのではないか」と客観的に振り返る素直さや謙虚さがあり、建設的に改善・向上を図っていく。

成長の方程式② 正しい目標設定+正しい自己認識

ビジネスパーソンの成長は、「目指す姿」(ビジネスで成果をあげている状態=目標)と、「現状」(今の自分=自己認識)のギャップ(課題)を埋めること、と定義できる(図2)。

成長=「目指す姿」と「現状」のギャップを埋めること

この定義に則って考えると、成長には、正しい目標設定と正しい自己認識の2つがセットで必要である。

目標を設定せず、ただやみくもに頑張り、時々振り返るだけでは、成長スピードは上がらず、成長を継続することもできない。

目標設定を間違えれば、本来目指すべき成長は達せられない。自己認識が間違っていれば、課題がどこにあるかも見極められず、打ち手も間違えてしまう。

成長の方程式③ 己を知り、他者を知る

原著刊行後10年を経て著者らは、社内で「育てる側」の育成に携わることに加えて、クライアント企業のミドル層~役員層の人材開発を支援する機会も増えた。そうした経験を基に、今回、「育てる側」であるミドル層自身が幹部へと「育つ」という視点で、この考え方を加えた。

ミドル層にとっての成長とは、周囲360度(経営層、同僚、チーム)を動かすリーダーへと進化し、組織としてのパフォーマンスを最大化できるようになることだ。そのためには、この方程式③も身につける必要がある。

まず、己を知る。

責任ある立場になるほど、「やるべきこと」に注力し「やれてきた」という成功体験を積み重ねてきた裏側で、実は「やりたいこと」をどこかに置き忘れてしまっていることが多い。これは自分自身のストレスとなるだけでなく、周囲にも同様の姿勢を求めるようになり、対人関係にマイナスの影響をおよぼしかねない。

「己を知る」とは、深い内省を通じた内発的動機の再確認により、自分自身が「やりたいこと」を認識し直し、「やれること」「やるべきこと」とのバランスを取り戻すことを意味する。このプロセスを経ると、同僚に対するものの見方が、不満から感謝へと180度転換する。同僚やチームは、自分がやりたいことに一緒に取り組んでくれるありがたい存在だと思えるようになる(図3)。

内発的動機の再確認により好循環を生み出す

さらに、他者を知る。

「他者を知る」は、組織を動かすうえできわめて重要なレバーとなる「コンテクスト(組織・個人としての意思決定と行動を決める要因)を理解する・つくる」、「他者の個性を活かす」という2つの側面に作用する。

組織はコンテンツ(課題定義や解決策の内容など)だけでは動かせない。顧客企業のコンテクストによって正解となるコンテンツが変わる、もしくは、特定のコンテンツが正解となるには特定のコンテクストの創出が必要となる。つまり、コンテンツとコンテクストが動的に相互作用をもつものとして理解しアプローチすることが求められる。

また、「他者の個性を活かす」は、多様な特性をもつ人材を柔軟に組み合わせて成果をあげることが求められるようになるなかで、ますます重要性を増している。

成長の方程式③の実践には、仕事の外に自分の時間を持ち、そのなかで他者とのつながりを深めることも意外と有用である。

BCGの育つ力・育てる力』では、こうした考え方を基に、「育つ側」、「育てる側」それぞれの視点でできることや、組織としての仕組みづくりなどを具体的に紹介している(詳しくはこちら)。