価値創造に優れた日本企業ランキング――BCG調査

アクティビストの活動や、大手企業に対する海外企業からの買収提案などがメディアで次々と報じられている。昨年、東証がPBR1倍割れの企業などを念頭に「資本コストや株価を意識した経営」の要請を行ったこともあり、日本企業の企業価値向上やPBRの改善への意識は高まってきた。しかし、昨今の環境下では、企業価値最大化に向けてのさらなる努力が求められている。

BCGでは長期的な企業価値創造を経営の最重要指標の1つと考え、1999年より世界各国の企業を対象に、5年間のTSR(株主総利回り)を軸とした分析を発表してきた。TSRとは、一定期間の株価の上昇(キャピタルゲイン)と配当などのインカムゲインを合わせた、株主にとっての総合的なパフォーマンスを示す指標だ。

21年からは日本企業を対象とした同様の調査も行っている。5月に発表した最新の調査では2023年までの5年間を対象とした分析を公開した。日本企業の2023年の年間TSR(株主総利回り)は25%と米国の24%を上回り、世界の他の地域との比較でも最も高いパフォーマンスを示した。中でも最も大きな価値を生み出した企業のランキングには、半導体関連企業などが顔を連ねた。

日本企業は2023年のベストパフォーマー

TOPIX(東証株価指数)と米国、欧州、新興国の同等の指標を用いて各地域の企業のTSRを分析すると、2023年の日本企業のTSRは25%と米国の24%を上回った(図表1)。5年間のTSRでも約10%と、米国(14%)に次ぐ水準となり、欧州(7%)、新興国(1%)を上回る。昨年行った同様の分析では日本の5年TSRは4地域中最低の1%だったことを考えると、2023年は日本企業の価値創造における分水嶺だったと言える。

日本企業全体のTSRを米国、欧州、新興国と比較した図表

価値創造に優れた日本企業

時価総額1兆円以上の大型企業を対象とした個別企業のランキング(図表2)では、半導体検査装置のレーザーテックが4年連続で首位となった。5年間の年平均TSRは94%に上る。今年のランキングでは上位10社中7社 を半導体関連企業が占めたほか、海運三社や多くの大手商社がランクインした。そのほか、ガバナンス改革の成功事例として投資家の評価が高まる日立製作所や信越化学がそれぞれ11位、12位にランクインしている。

日本企業のTSRランキング上位50社。レーザーテック、川崎汽船、日本郵船など。

BCGでは、TSRの構成要素を因数分解して、各要素のTSRへの貢献度を明らかにするモデルを開発し、多くの企業の価値創出構造の分析に活用している。図表2の右側は、各企業の要素ごとの貢献度を明らかにしたものだ。例えば、1位のレーザーテックでは、売上成長とマルチプルの変化の貢献がTSRの8割以上を占めるが、2位の川崎汽船はレバレッジの増加率とマージンの改善が最も大きな構成要因となっており、相違が際立つ。TSRは株式市場との関連性が強く、コントロールできないと考えられがちだが、ここで分解した各要素にはそれぞれ関連する戦略変数があり、両者を紐づけて検討することは可能だ。詳しくはこちらのレポートを参照いただきたい。

さらなるPBR改善に向けて「事業ポートフォリオの最適化」と「戦略的IR」

日本企業はPBR改善を意識して動き始めたが、大半は自社株買いの実施や政策保有株・不要資産の売却などの財務施策にとどまっている。レポート内の分析では、多くの企業においてPBRの改善はPER(株価収益率)の改善によってドライブされていることが明らかになっており、日本企業の資本収益性の改善はいまだ道半ばだ。レポートでは、企業がPBRの改善、ひいては持続的な企業価値、TSRの成長を実現するための重要なポイントとして、以下の2点を挙げる。

1つ目は、事業ポートフォリオの最適化だ。なぜ自社がその事業を手掛けるかを、経営者が自問自答し、黒字事業の「切り離し」も選択肢に入れる。売上や利益だけでなく「事業価値」の考え方を導入してポートフォリオの議論に客観性を持たせる。実行にあたっては「成長領域の明確化、腹決め」「リーダーシップと強い実務部隊」「外部の知恵の活用」が必要になる。

2つ目が、戦略的IRだ。IRは単なる財務報告ではなく、資本の獲得競争の中で、投資家に対し、自社に投資すべき理由を訴えかけるプレゼンテーションである。魅力的な「エクイティストーリー」と経営者のコミットメントが肝となる。

レポートの共著者の一人、BCG東京オフィスのマネージング・ディレクター&シニア・パートナー 加来 一郎は「日本企業が享受してきた株価の上昇は期待先行による『宴』のようなもの。今こそポートフォリオの最適化やIRの改革などに取り組み、実質的な企業価値創造につなげていく必要がある」とコメントしている。

■ 調査レポート

日本企業のPBR改善に向けた処方箋――日本版 バリュークリエーターズ・ランキング2024

■ 調査概要 

TSR(トータル・シェアホルダー・リターン、株主総利回り)とは、企業価値創造の測定指標。一定期間における配当と株価の値上がりの総利回りで、株主にとっての投資収益性を示す。本調査では日本企業705社を対象に2019~2023年の5年間における年平均TSRを算出・分析した。BCGでは1999年より25年以上にわたりグローバル規模で同種の調査を継続して行っている。調査の詳細や過去のレポート、グローバルランキングはこちらからご覧ください。