世界の家計金融資産は前年比7%増の275兆ドルに 2023年末、日本は4%増

2023年末時点の世界の家計金融資産は、近年の平均水準と同等の前年比7%増。15年ぶりに前年比減となった2022年末から再び成長に転じたことが、ボストン コンサルティング グループの調査でわかった。BCG では、家計資産の規模やウェルスマネジメント(富裕層向け運用サービス)業界の動向をまとめたレポートを毎年発表しており、今回で24 回目。

15年ぶりに前年比減となった2022年末から大幅な成長

2023年の世界の家計金融資産は275兆ドルと推計され、前年比で約7%増加した(図表)。2022年から大幅な成長となったのは主に金融市場の回復によるもの。BCGは、今後5年間で世界の金融資産は92兆ドル増加すると予想している。金融資産と不動産等の非金融資産の合計から負債を引いたネット資産は4.3%増の477兆ドルだった。

世界の家計資産の推移を表したグラフ

金融資産の伸びを地域別に見ると、堅調だった株式市場を背景に特に北米が急成長した。2023年に新たに形成された金融資産の50%以上を北米が占めた。アジア太平洋(日本を除く)は中国の減速により5.1%増にとどまったものの、2028年には金融資産の増加額の30%近くを占めると予想している。中国に加え、インドも世界の資産の拡大をけん引している。

日本の家計金融資産は4.2%増の15.4兆ドル。BCG東京オフィスのマネージング・ディレクター&パートナー、栗原 勝芳は「日本の伸びが世界平均より鈍い背景には、給与所得が各国に比べ増えていないことや、資産運用の比率が低く株高の恩恵が少なかったことがあるとみている。新NISA(少額投資非課税制度)を含むさまざまな施策により、貯蓄から投資への後押しが強まっていくことを期待している」とコメントしている。

自国外への資産預け先としてUAEが急成長

自国外に預ける資産(クロスボーダー・ウェルス)は全世界で前年比5.1%増の13兆ドルと、昨年以上の伸びを記録した。クロスボーダー・ウェルスのブッキングセンターについて、レポートの著者らは次のように解説している。

  • アラブ首長国連邦(UAE: もっとも顕著に成長している。自国外資産を管理する金額で現在世界第7位であり、2028年には英領チャネル諸島・マン島を抜いて第6位となると予想
  • 香港: 2028年には世界最大の金融ハブとなると予想しているが、中国からの資金流入が一時的ながら大幅に減速したため、失速した。シンガポールは香港の台頭に挑戦できる立場にある
  • スイス: 依然として世界最大のブッキングセンターとして機能している。成長率は4.8%と過去の平均水準と同等
UAE・ドバイの街並み
Rasto SK/Shutterstock.com

スイスを含め欧州のクロスボーダー・ブッキングセンターは、シンガポール、UAE、米国などに比べ成長ペースが鈍くなっている。その背景には、中東やアジアの資産が急増し、地理的分散に対する需要も高まっていることがある。スイスは当面の間地位を維持すると予想されるが、5年後のトップをめぐっては、激しい競争が繰り広げられると著者らは推測している。

将来のウェルスマネジメントのカギを握る生成AI

ウェルスマネジメント業界の手数料収入は大幅に低下しており、インフレや業務の非効率性、規制要件の強化によりコスト上昇に直面している。このような中、カギとなるのが生成AIの活用だ。金融機関に対するBCGの調査によると、ウェルスマネジメントを提供する企業やプライベートバンクなど約60の主要金融機関のうち85%が、生成AIが変革やディスラプション(創造的破壊)に向けた大きな力になると考えている。しかし、包括的かつ長期的な生成AI戦略と短期的な導入のためのロードマップを描けていない企業は82%にのぼる。

レポートの共著者でBCGチューリッヒ・オフィスのマネージング・ディレクター&パートナー、Michael Kahlichは「2023年に資産の拡大傾向は回復したが、ウェルスマネジメント業界には立ち止まっている余裕はない。明確なデジタルトランスフォーメーション戦略を設定したうえで、生成AIを活用し、コストの管理や顧客体験の向上につなげるべきだ」とコメントしている。

■ 調査レポート
Global Wealth Report 2024: The GenAI Era Unfolds