人材の可視化と需給予測で日本企業の競争力を高める

まず事業戦略を実現するために必要な人材について、将来的な見通しも踏まえながら、人材クラスター(「データサイエンティスト」「法人営業担当」のような人材の類型)、人数、および人材要件(スキルや経験)を明確化する。そのうえで、採用や人材育成、ジョブローテーションなどの人事施策を進めていく。この一連の流れを体系的に示したのが下図である。

人材ポートフォリオ戦略の考え方。⓪前提となる事業戦略、組織戦略をインプットする。①事業・機能ごとに必要な人材要件を類型化(人材クラスター)。②供給量の予測。③需要の予測。④人材クラスターごとの需給ギャップの判定。⑤打ち手の具体化、実行。⑥戦略策定サイクルと連動した年間プロセスを設計し、経営層と事業部との協働の取り組みとして推進する。

実践のプロセスは、前提となる事業戦略が人材に与える影響を確認しながら、戦略実現に必要な人材クラスター、および人材要件を定めることから始まる。したがって「事業側の求める人材がよくわからない」という1つ目の溝を解消できる。

人材クラスターの設定後はクラスターごとに将来の需給を予測し、ギャップを可視化する。そして、このギャップを埋めるために増員すべき人材クラスターや強化すべきスキルを優先順位付けし、事業側と人事側が連携して効果的な打ち手を検討する。

この進め方であればギャップ解消という目的を共有できるため、事業側と人事側は連携しやすくなる。優先度の高い人材やスキルから強化していくので、人材育成に要する期間の短縮も期待できる。

こうした一連のプロセスを通じて、事業戦略、人材戦略、人事施策に一貫性が生まれ、「人材育成に注力しているのに人材が不足する」といった状態から脱出できるようになる。これこそが「戦略人事」の考え方だ。

コロナ禍を経て、人々の働き方や仕事観が多様化し、世界的に人材獲得競争が激化している時代においては、人材ポートフォリオ戦略の実践と定着が、競争優位の源泉になるといえよう。

人材ポートフォリオの難所

人材ポートフォリオ戦略はうまく実現できれば事業運営を強力に下支えしてくれるが、複雑性が高いため、一歩間違えれば検討途中で頓挫しかねない。そこで、実践するうえでつまずきがちな工程と対処方法について解説しておきたい。

大きな難所となるのは、人材クラスターの明確化(図表の①)と将来的な需要の予測(③)だ。

やっかいなことに、これがなかなか難しい。人材クラスター検討の前提(⓪)となる事業戦略の具体性が低く、その実現に向けた組織や業務の姿が見えにくいため、必要となる人材クラスターを特定できないという問題が少なからず生じるからだ。また、検討の過程で人材ポートフォリオに精緻さを求めるあまり、人材クラスターの数が増加し収集がつかなくなる場合もある。

ではどうするか?