人材の可視化と需給予測で日本企業の競争力を高める
「人材が足りない」。日々さまざまな業界の企業から相談を受けるが、どれも極端に言ってしまえばこの言葉に尽きる。
例えば、巨大な製造拠点を持つA社の場合。技術部門のエンジニアが不足しており、安全性と品質の維持が困難になってきている。エンジニアの育成には時間がかかるため、当面の間どう乗り切ればいいのかわからず悩んでいる。
サービス業B社はインバウンドによる業績へのインパクトが大きい。ウィズコロナ時代への移行で訪日客が増加し業績回復のチャンスを迎えているが、対応できる現場人材が不足している。このままでは機会損失になりかねない。
製造業C社は海外売上比率が高い。グローバル戦略の柱として海外拠点に根差した新製品の開発・拡販を計画しているが、そのためにどのような人材が必要なのか、その人材を採用するのが早いか社内で育成すべきか、見通せないでいる。
これらはいずれも、人材の量(人数)と質(スキルや経験)の不足に起因する問題だ。人材不足が経営に大きな影響を及ぼすことはいまさら言うまでもないだろう。しかしそれならば、日本企業は人材確保に何の手も打ってこなかったのだろうか?なぜ今、これほどまでに切迫した問題になっているのだろうか。
事業部門と人事部門の間に横たわる溝
原因は、人材を求める側(事業や機能部門)と供給する側(人事部門)の間に生じている2つの溝にあると考えられる。
まずは事業側が必要な人材の姿を十分に描けていない、いわば“解像度が低い”ために生じる溝だ。「いつまでに、どんな人材が、どの程度必要なのか」を明確に定義できていなければ、供給する人事側も応えることはできない。
次に、求める人材と人材強化施策の間に生じている溝、つまり人事部門と事業部門で連携がとれていないという問題だ。採用や人材育成、ジョブローテーションなどの施策が、将来の事業運営に必要な人材の輩出に上手くつながっていないのだ。
冒頭のA社はかねてよりエンジニアを確保する重要性を認識しており、十分に手を打ってきたつもりだった。しかし実際には、強化が求められるスキルや人材が必要となる時期について、人事部門が技術部門のニーズを十分に踏まえることなく育成プログラムを開発してしまった結果、エンジニアの確保が一向に進まなかった。人材を求める事業側と供給する人事側が十分に連携できていなければ、必要な人材を確保できるはずがない。
こうした連携不足の状況に、生成AIをはじめとするデジタル技術の急速な発展や顧客ニーズの多様化といった事業環境の複雑な変化が掛け合わさり、多くの企業が「必要な人材はますます多様化していくのに、マッチした人材をいつまでも確保できない」という状況に陥っている。
事業戦略に基づいて人材の需給を予測する
これらの溝を埋め、橋渡しする役割を果たすのが人材ポートフォリオ戦略である。その基本的な考え方と手順は、次の通りだ。