生成AIによる「合成記憶」が認知症に効果?――シニア・パートナー森田の眼

記憶とは奥深いもので、取り込まれた情報が脳の海馬に貯蔵され、それを何らかのきっかけで思い出すことができる。きっかけは様々で、記憶した情報を口頭や筆記で表現することや、同じような経験をすることなどがある。壊れたガラケーを再起動し、昔の写真を見ようというイベントが好評なのもうなずける。

今、合成記憶プロジェクトなるものが立ち上がっていると聞く。誰しも、映像には残っていないが記憶の片隅に漠然とある、自分にとって大切な思い出を持っているだろう。それを生成AI(人工知能)の力を使ってリアルな画像として再現しようとする試みだ。言わば、カメラで撮れなかった過去を取り戻そうということでもある。

記憶をたどりながら、プロンプトエンジニア(生成AIに指示を出すエンジニア)に断片的な記憶のキーワードを語りかけると、生成AIが候補の画像を出す。それに対して「もっとこんな感じだった」と伝えると、修正された画像が出る。これを繰り返すのだが、記憶に合致すると人は「そう、まさにこうだった!」というような、それまでとは明らかに異なる反応をするらしい。

この合成記憶プロジェクトは、認知症に対して効果があるかもしれない。認知症を医学的に治療するのはハードルが高いと言われている。一方で、認知症患者がコミュニティーとのつながりの中で刺激を受けたり、過去の記憶を取り戻そうとしたりすることは、改善や進行抑制に一定の効果があるという見解もある。生成AIが認知症にどう貢献するのか、注目したい。

※本記事は、2024年4月26日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。