チェンジモンスター退治の手法(後編)【BCGクラシックス・シリーズ】

③改革成功にはハイリターンで報いる

改革リーダーは、通常業務とは異質、高難度、かつ自分のキャリアにとってはハイリスクの仕事にチャレンジするのであるから、リスクに応じたリターンを提供すべきである。さもないと、リスクを回避するため、改革とは逆方向の行動を取りかねない。これには、改革リーダーがリスクをとってもいいと思うほどの、多額のリターンあるいは抜擢人事で報いるしかない。たとえば、子会社の抜本的なリストラに成功した暁には、リストラにより改善するキャッシュフローの一部を成功報酬として支払う、あるいは、再上場する際のストックオプションを潤沢に与える等である。これらは外資企業がよく行っている手法だが、日本企業に適用することは、経営トップの決断さえあればそう難しいものではない。また、社内においても改革のプロが一つの「出世領域」として認知される契機にもなる。

たとえば、外資ファンドが買収したある破綻金融機関D社には「外人部隊」が改革リーダーとして送り込まれているが、彼らにはストックオプションが付与されている。改革を成功させ、再上場を成しとげた暁には、億単位の報酬が入るニンジンがぶら下げられている。「宝くじに当たるようなものですよ」と、あるリーダーは冗談交じりに語っているが、投資家が設定した四半期毎の高い業績目標をクリアしながら、最短で再上場に持っていくのは生半可なことでは達成できない。ニンジンがあるからこそ、これまでの日本の経営陣ならとても踏み込めない領域にまで手を突っ込んで改革を断行しているのだ。ぜひこのような改革を、外資が入ったからということでなく、日本企業自らの手で実現してもらいたい。

④改革支援ツールで武装する

改革リーダーに与えるプロジェクト・マネジメントのツール(道具)も非常に重要である。

私どもが通常よく使うツールをご紹介すると、以下のようなものがある。

改革ビジョンマップ:改革ビジョン、すなわち達成したい目標と各部門・チームの役割・任務などを1枚の大きなシートにまとめ、壁に貼っておく。改革の「旅」において北極星とコンパスの役割を果たし、迷走した時の軌道修正の拠り所ともなる。

チェンジ・カーブ:改革における組織の意識変化の典型的なパターンを地図に描いたもの。このポスターを壁に貼り、現地点、これから向かう地点で待ち受けているモンスターを分析・予測し、対応策を討議する手段として使う。

企業診断キット:よく使われているのが、QRD(Quick Response Diagnostics、即席診断キット)である。ある程度戦略は明確になっている経営者が、自分の企業が今企業改革のどこに位置し、その戦略の実行に際してどんなマネジメントをしていけばいいか、の方向付けを数週間の簡単なスタディで評価・提言できる手法である。

組織モニター:改革途上では、各種の社内サーベイを駆使し、常に組織の感情・認識状態をモニターし、タイムリーに問題のありそうな社員や組織に対応できるようにする。社員の改革に対する意識状態を定量評価できるRWA分析手法(Readiness, Willingness, Acceptance)は、改革過程を通じてよく使う。実施に当っては目的や匿名性を十分説明したり、サーベイばかりやりすぎて社員に負担感を与えないようにしたり、結果はコメントをつけて社員に必ずフィードバックする等の配慮が不可欠である。

改革リーダーには、改革の準備期においてこれらの道具が使いこなせるように徹底的にトレーニングを行なう必要がある。

以上、日本企業にとってのモンスター退治の本質的課題とその解決に向けた提言を論じた。日本企業は、まだまだ捨てたものではなく、「外」の視点から高いバーを設定し、改革を起動し完遂する覚悟を固め、改革のプロを育て、成功にはリスクに見合った報酬で遇することを行なえれば、危機に瀕し他者に身を委ねる前に自ら改革ができると確信している。

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著者(肩書は当時)
今村 英明 BCG東京事務所 ヴァイスプレジデント
森澤 篤 BCG東京事務所 ヴァイスプレジデント
宇佐美 潤佑 BCG東京事務所 プロジェクトマネジャー