チェンジモンスター退治の手法(前編)【BCGクラシックス・シリーズ】

「前例はないし、組合がウンというはずない」「うちの部署の仕事とは関係ない!」 「それは何度も検討した。無理な理由は5つあって…」。どの企業にも、さまざまな言い訳で改革を妨げる「モンスター」がいるのではないだろうか。2002年に発行され、今も日本企業のリーダーに読まれているBCGの論考「チェンジモンスター」。会社にいるモンスターを理解してうまく退治し、企業改革を成功させるための具体的なポイントを紹介する。

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日本企業に潜むチェンジモンスター

チェンジモンスターとは、改革を妨害したり、かき回したりする、人間的・心理的な要因の総称である。人間関係のもつれ、変わることへの怖れ・反発、喜怒哀楽・嫉妬・興奮など改革にともなうもろもろの感情である。私どもが日本の企業改革をお手伝いする中で日々遭遇しているモンスターの例と特徴を以下にあげてみよう。

『タコツボドン』
・得意技:自分の担当を超えた視野を持つことを拒否し、「よそ者」の関与を否定する。自分のタコツボに閉じこもり他とのつながりを持とうとしない。
・雄叫び:「それはうちの部署の仕事とは関係ない!」 「ご忠告はありがたいが、それは本来うちのやるべき仕事なので、後はお任せ下さい!」

©ボストン コンサルティング グループ

『ウチムキング』
・得意技:社内で何が評価されるかを非常に重視し、全ての行動を、顧客等の外部ではなく、内向きに焦点を合わせ、社内外のズレに目を閉ざす。
・雄叫び:「常務、社内の反応は上々です、このままでうまくいくはずです!」

©ボストン コンサルティング グループ

『カコボウレイ』
・得意技:かつての経営トップが手掛けた事業や開拓した取引先は、たとえどんなに業績が悪くても撤退を議論できない、決断できない。
・雄叫び:「先代会長が手塩にかけた事業を君はどうしようというのか!」

©ボストン コンサルティング グループ

『ミザル・キカザル・イワザル』
・得意技:3匹セットになって「見ざる・聞かざる・言わざる」を通し、改革の嵐が通り過ぎるのを、首をすくめてやり過ごす。
・雄叫び:「どうせ今回もまた掛け声だけだ。動くだけ損」

©ボストン コンサルティング グループ

『ノラクラ』
・得意技:さまざまな言い訳を使い、あの手この手で改革を回避しようとする。
・雄叫び:「前例はないし、組合がウンというはずない。それに忙しくて人手が足りないよ。」

©ボストン コンサルティング グループ

『マンテン』
・得意技:全ての可能性とリスクを潰して百点満点の報告書がないと動き出せず、結局具体的なアクションが取れない、あるいは遅れる。
・雄叫び:「まだデータ不足だ。動く前にもう少しじっくり検討しなくては。」

©ボストン コンサルティング グループ

『カイケツゼロ』
・得意技:課題の指摘やできない理由の説明は巧みだが、解決策は出せない。
・雄叫び:「それは何度も検討して無理なんです。その理由は5つあって…」

©ボストン コンサルティング グループ

一世を風靡したアニメのポケ・モンとは異なり、これらのチェンジモンスターは多くの企業の中に(冬眠中の場合も含めて)実在している。非常に優秀なビジネスマンで本来改革を推進すべき立場にある人たちですら、上にあげたような姿に変身してしまうことも少なくない。しかも本人は悪意を持って改革に反対しているつもりはなく、自分なりの正論に従った結果として逆に怪物に変身していることもしばしばだ。こういうと、読者は、自分の会社のどこにこんなモンスターが棲息しているのかとお思いかもしれない。まずは、会社のトイレを探してみることをお勧めする。そう、鏡の中に映った読者自身が、もしかすると最も手ごわいモンスターになってしまっているかもしれない。

7種類のチェンジモンスターの得意技と叫び声を示した図