経営層の66%が生成AIに関する自社の取り組みに不満 世界1400人に調査

生成AIの話題性は認識しているものの、具体的な活用には踏み込めていない。世界の90%の企業が、そのような「様子見」企業にあたることがわかった。急速に普及する生成AIは、そのスピードの速さから、様子見している企業と「成功しつつある企業」の間に大きな差を生んでいる。生成AIの活用により生産性を向上させ、売上成長を実現するために、先行する企業はどのような取り組みを進めているのか。日本を含む世界50市場14業界の経営層1406人を対象に実施した調査レポート「生成AIの可能性を利益に」から解説する。

85%が2024年にAIへの投資を増やす

経営層は生成AIの可能性の大きさを認識しており、2024年に優先すべき経営課題であると考えている。調査の回答者の71%は2024年にテクノロジーへの投資を増やす計画であり、この割合は2023年の60%から11%ポイント上昇している。AI・生成AIへの支出を増やす予定であると回答した経営層の割合はさらに多く、85%だった。

テクノロジーやAIへの投資を増やす計画があると回答した人の割合を示した図

しかし、ほとんどの企業の取り組みは、現在のところ生成AIで利益を生み出せるほど十分ではない。経営層の66%が、AI・生成AIに関する自社の取り組みの進捗に満足していない、あるいは不満を抱いている。その主な理由としては、「人材とスキルの不足」(62%)、「AI・生成AIの活用に向けたロードマップや、投資の優先順位が不明確」(47%)、「責任あるAIと生成AIに関する戦略の欠如」(42%)が挙げられる。

自社のAI・生成AIの取り組みの進捗に不満を抱いている理由を示した図

生成AI活用に向けてカギとなる従業員のスキル向上についても、取り組みが進んでいるとは言いがたい。生成AIツールのトレーニングを従業員の4分の1以上にすでに受けさせたと回答した企業はわずか6%にとどまっている。

スキル向上の必要性は、従業員だけでなく経営層にも広がっている。自社の経営陣の生成AIに関する習熟度を聞いたところ、40%が「自信はわずか」、19%が「自信がない」と答えた。

自社の経営陣の生成AIに関する習熟度について、自信がないと答えた人の割合を示した図

生成AIで成功しつつある企業の特徴

つまり、多くの企業がAIへの投資を増やす計画をしながらも、実際の改革への着手には二の足を踏んでいる状況だ。経営層の3分の2は、AI・生成AIが単なる流行を超えて、実用的な段階に移行するまでに少なくとも2年はかかると考えている。また71%が、小規模かつ限られた範囲での実験やパイロットプロジェクトを行うだけにとどまっている。回答者の約90%がこのいずれかに該当しており、「様子見している企業」と言える。

しかし、ただ成り行きを見守っていては、生成AIの活用による利益の創出に後れを取ることになる。複数の経営トップに対して行った詳細なインタビュー結果も踏まえると、「成功しつつある企業」の特徴は次の通りだ。

  • 生産性と売上高の成長を目的とした投資:10%以上の生産性向上と収益の増加に向けて再投資している
  • 組織的なスキルの向上:学習能力のスケールアップに注力しており、それを経営層にも広げている
  • 生成AIの活用にかかるコストへの着目:利用料金など活用にかかるコストが長期的な影響を及ぼすものであり、今から気をつけておかなければならないと理解している
生成AIソリューションを選ぶ際に最も重視する検討事項としてコストを上げた人の割合を示した図
  • 戦略的なパートナーシップの構築:ソフトウェアプロバイダーや生成AIスタートアップを含む複数の企業とのパートナーシップ(エコシステム)を発展させ、複雑かつ急速に変化する課題に対処している
  • 責任あるAI(RAI)の原則の実装: RAI戦略をCEO直下で推進し、新たな方針や規制の先を見越して計画を立てている
責任あるAIについてすでに対策を取っている企業の割合などを示した図

BCGのCEO、クリストフ・シュヴァイツァーは以下のようにコメントしている。

「2024年は、生成AIに期待される可能性を、具体的なビジネスの成功へと結び付ける一年だ。技術がこれほど急速に変化すると、事態が落ち着くまで待ちたい気持ちに駆られることもあるだろう。しかし生成AIについては、他社に先んじる企業はとにかく実験し、学び、大規模にシステムを構築している。多くのCEOが、生成AIについて急速に学習を進めているということだ。

生成AIの能力を完全に引き出すために、まず生成AIを導入して日常業務の効率を向上させ、重要な業務プロセスや機能を再設計し、新たなビジネスモデルを創造するべきだ。そうすることで、生産性は最大20%、効率性は最大50%向上、売上も増加し、長期的な競争優位性を生み出せる」

 調査レポート:
生成AIの可能性を利益に」(2024年2月)

調査概要:

BCGの生成AIに関する意識調査の概要を示した図