コメ価格が温暖化とウクライナ侵攻で急騰――シニア・パートナー森田の眼

世界を見渡すと、いまコメの価格が急上昇している。日本をはじめ、世界人口の半分以上の主食であるコメが約15年ぶりの高い価格水準になっている。引き金は、世界一の輸出国であり、コメ輸出全体の40%を占めるインドによる輸出制限だ。総選挙を控えたインドの政権がインフレの進む中でコメの価格を安定させようと躍起になっていることがその背景にある。

いつの時代でも、最も大きなダメージを受けるのが貧困国だ。今回も、アフリカなど食料や肥料の輸入依存度の高い貧困国が苦境に陥っている。債務負担率が高く、通貨が下落し金利が上昇している国は更に深刻な状況にあると言われている。世界のフードシステムは、生産の偏在化により、どこかにしわ寄せが来る脆弱な構造だ。

実際、世界は2007年ごろにもコメ価格高騰による食料危機を経験している。インドの輸出制限に、タイやベトナム、エジプトやパキスタンといった主要な原産国も追随したことで、アフリカで暴動が発生し、中東や北アフリカでも食料不足から政府への不満が高まり、10年以降のアラブの春につながったという見方もある。

しかも、今回のコメ価格高騰による危機は前回より大きくなる可能性がある。ウクライナからの穀物の輸出が制限されている上、気候変動の影響が大きい。近年は新品種開発で収量が増加してきたが、東南アジアの主要産地では気候変動で暑くなりすぎ、それが停滞しているという。フードシステムの強靭化には、偏在化による構造的な課題にメスを入れる必要がある。

※本記事は、2023年12月1日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。