企業のAI活用 推進のカギは従業員の不安解消

世界各国の企業経営者や従業員に実施したAIについての意識調査によると、AIが仕事に与える影響を楽観視する人の割合は増加している一方、経営層と現場従業員ではその受け止め方や活用状況に大きな差があるようだ。

働き手は5年前よりAIの可能性に「楽観的」

BCGは、世界18カ国で業界を問わず経営幹部、管理職、現場従業員として働く約1万2,800人を対象に、AI活用に対する考え方や心情について尋ねる「職場におけるAI活用に関する意識調査」を実施した。

BCGが5年前に実施した同様の調査と比較すると、回答者は平均的に見てAIに対して楽観的になり、懸念は少なくなっているようだ。「楽観的」と回答した人の割合は37%から52%へと17%ポイント上昇し、「懸念」の割合は40%から30%へと、10%ポイント減少している。

経営層は使用頻度も楽観視の割合も高い

楽観視する傾向は、AIの使用頻度と比例している。「生成AIツールを日常的に使用する(少なくとも週に1回使用する)」と回答した人と使用しない人では、前者の62%が「楽観的」と回答したのに対し後者は36%と、いずれも20%ポイント以上の差が出た。生成AIに触れる機会が増え、使い方に慣れる人が増えれば、楽観的へとシフトする傾向は継続すると予想できる。

「楽観的」と「懸念」の割合は、働き手の組織内での立場や、生成AIの使用頻度によってかなり大きな差が見られた。経営層と現場従業員を比較すると、前者は62%が「楽観的」と回答したのに対し、後者は42%だった。

また、「生成AIツールを日常的に使用する」と回答した人の割合は、経営層では80%に達しているのに対し、現場従業員ではわずか20%にとどまっていることも分かった。使用頻度の差異が、経営層と現場従業員の受け止め方が異なる一因となっていると推測できる。働き手がAIの可能性を楽観的に受け止め仕事に生かそうとするか、不安を抱いたまま敬遠するかは、日頃からチャットGPTをはじめとするAIツールに親しんでいるかどうかが重要なポイントと言えそうだ。

日本は18カ国中、「楽観的」の割合が最も低い

職場におけるAI活用の受け止め方は、国・地域によっても異なった。調査を実施した18カ国のうち、「楽観的である」と回答した人の割合が高い国は、ブラジル(71%)、インド(60%)、中東諸国(注1)(58%)。対する低い国は米国(46%)、オランダ(44%)、日本(40%)で、日本の割合が最低となっている。楽観的な割合が最高の国と最低の国では31%ポイントの差があり、グローバルに展開する企業は留意する必要がある。

AIによって仕事を失うと考えている人の割合は36%

調査では、全体の36%の人々が「AIによって仕事を失う可能性が高い」と考えていることもわかった。AI時代の職場環境に向けたアップスキリングの必要性を感じている人は、86%にのぼっている。しかし、実際のトレーニングの現状についても差異があるようだ。経営層では44%が「すでにAI関連のアップスキリングのトレーニングを受けている」と回答しているのに対し、現場従業員の割合はわずか14%である。

組織内で幅広くAI活用を後押しするには、現場従業員の不安感を適切に減らしていくことが欠かせないだろう。企業はまず、AIが浸透する職場環境に従業員が対応できるよう、アップスキリングやりスキリングの機会を設けるなど対応を考えるべきだろう。

「責任あるAI」への取り組みについても、経営層と従業員にギャップ

また、企業が自社の目的や倫理的価値観に沿った形でAIを管理する「責任あるAI」プログラムを作り、導入する必要性が高まっている。多くの企業が、政府による規制の制定を待つのではなく、独自のプログラムを導入している。しかし、「企業は責任あるAI活用ができているか」という質問への回答では、役職で顕著な違いがみられた。経営層の7割が「適切に活用できている」と考えている一方、現場従業員では3割と少なく、より否定的に状況を捉えているようだ。

経営リーダーが取り組むべき3つの重要事項とは

以上の結果から、従業員は企業が「適切な取り組み」=「責任あるAI」に取り組んでいると確信して初めて、AIを受け入れる準備ができると言えるだろう。調査チームは、職場における生成AI活用を促すうえで、経営リーダーが取り組むべき3つの重要事項を提示している。

①「責任あるAI」の試験的取り組みを安全に行えるようにする

従業員がテクノロジーに対して安心感を持つことは重要なポイントだ。従業員がAIツールを日常的に使用するようになれば、その利点だけでなく、限界やリスクも認識できるようになる。

継続的なアップスキリングに投資する

継続的なトレーニングは不可欠。テクノロジーが急速に進化していることを考えると、アップスキリングは1回限りの取り組みでは終わらない。企業は、従業員が仕事の変化に備えられるよう、トレーニングに投資する必要がある。

「責任あるAI」プログラムの構築に優先的に取り組む

従業員は自社がAIについて倫理的に取り組んでいるという報告や安心感を求めている。

BCG東京オフィスで生成AIトピックの日本リーダーを務める中川 正洋は「企業は、従業員にAIを安全に使用できることを担保しつつ活用を促し、そのポジティブな影響を実感してもらうことで、AIに対する前向きな組織文化の醸成を目指していく必要がある」と指摘している。

注1: サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、オマーン、クウェート

調査レポート: 職場におけるAI活用に関する意識調査(2023年6月)