チェンジモンスター退治の手法(後編)【BCGクラシックス・シリーズ】

自分の担当を超えた視野を持たない、百点満点の報告書がなければ動けない、課題の指摘やできない理由の説明は巧みだが、解決策は出せない…。改革を妨げるさまざまな「モンスター」を退治し、日本企業の成長につなげるための具体的なポイントを、2002年に発行され今も日本企業のリーダーに読まれているBCGの論考「チェンジモンスター」から紹介する。(7種類のモンスターについて解説した前編はこちら

7種類のチェンジモンスターの得意技や叫び声を示した図

モンスター退治の具体的な手法例

①外の「モノサシ」に基づき高いバーを設定し、改革起動のトリガーとする

日本企業の相対的なモノサシの弊害から脱却するには、まず「外」の視点から、新たなモノサシに基づき飛び越えるべきバーを高く明確に設定し、改革起動のトリガー(引き金)にすることである。

「外」の視点の第一は、グローバル競合を基準(ベンチマーク)として考えることだ。国内競合にばかり目を奪われていると、「成熟業界=低収益」という言いわけの罠に陥ってしまうが、目をグローバル競合に向けると基準が変わってくる。グローバルの一流プレーヤーが成熟業界で高収益を上げるためにどんな戦い方をしているのかを研究すると、重要な示唆が得られることが多い。日本の大手産業財企業A社の例をみてみよう。A社では、ある競合グローバル企業B社を分析してみると、A社が重点攻略先・儲けの源泉と考えていた大企業顧客は、B社にとっては、技術を磨くために付きあい、儲けは必ずしも出なくてもよい「知恵のなる木」という位置付けと捉えられていることがわかった。逆に、A社が軽視していた中堅企業をB社は「金のなる木」と位置付け、しっかりと儲けていることがわかった。

しかも、二つの顧客タイプに応じて、チャネルを使い分け、異なるタイプの営業マンを配置・育成し、整合性の取れたビジネスモデルを作っていた。A社はそれまで、B社の高収益性を高い技術力の結果と考え、B社に負けないために技術開発投資を行っていたが、一向に収益には結びつかなかった。しかし、B社のスタディを契機に戦い方を抜本的に変えることになった。

「外」の視点の第二は、資本市場の視点である。日本企業のコーポレートガバナンスに対して「ものをいう」株主が、外人投資家、機関投資家を中心に増えてきており、日本人投資家の中にも同様の動きが出てきている。また、株主だけではなく、株主の意思決定に大きな影響力を与えるアナリストや負債コストに影響を及ぼす格付け機関等が日々経営を監視している。事業別に「株主価値の通信簿」を作ることは、資本市場の視点を導入する一つの手段である。株主価値をベースに明確な経営のモノサシを作り、どのバーを越えれば合格かという全社共通の数値目標を設定し、それに向けて弛まざる改革を推進していくメカニズムを経営管理に組みこむことが必要だ。これによって、株主価値からみた各事業の現状と課題が明確になり、これを構造改革の議論の起点にすることができる。

②改革リーダーの人事がものを言う

日本企業の役員・幹部に本当の意味での改革の覚悟を決めさせるためには、今までと違った思い切ったやり方を導入する必要がある。

まず、腹がすわり、改革ができるリーダーをつけることだ。そんな人材は社内にいるのかとの懸念もあろうが、私どもの経験からは意外にいるものである。往々にして、衆目の一致するエース人材よりも、これまであまりスポットライトがあたってこなかった周辺部の異能の中から、改革リーダー候補を発掘できることが多い。ある大企業C社の改革に際して、これまで下馬評にもあがらなかった人が改革チームのヘッドに据えられたことがあった。当初は、本人にも周囲にも戸惑いがあったが、いざ蓋をあけてみると大変なリーダーシップを発揮した。「2年で変わらなかったら自分は辞める」と背水の陣を宣言し、着実に成果を収めている。この人の改革に対する覚悟と情熱は周囲に伝播し、他のリーダーたちも改革開始当初とは比べものにならないくらい士気が高まった。ただし、そういう人材を目利きできる眼力があることが前提となる(C社の場合には、現場視察の際にその人に目をつけた社長に眼力があった)。もし、社内にリーダー人材が見つからなかった場合は、外部から改革のプロを招聘することになる。

次に、改革リーダーに対し、現状認識とバー(目標)を示して、コミットさせることだ。コミットさせるとは、社長や担当役員が、目標のレベルと目標を達成できた場合・できなかった場合の処遇をあらかじめ明らかにした上で、改革リーダーと「契約」することである。目標達成できない場合には、更迭あるいは辞任というところまで踏み込んだ契約にしないとなかなか覚悟は生まれてこない。場合によっては、改革リーダーと一蓮托生で関連役員全員が辞表を預け、改革が不成功なら関連役員全員辞任というやり方も、実行体制一枚岩化に有効なこともある。