第9回 AIエージェントの仕事を広げる新技術「MCP」「A2A」

世界の皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは。BCG Xの高柳です。最近「AIエージェント」って言葉、よく耳にしませんか? 第7回でも紹介した通り、実は私たちの未来をガラッと変えてしまうかもしれないワクワクする技術なんです。今回は、そんなAIエージェントをさらにパワーアップさせる2つの新しい技術、「MCP(Model Context Protocol)」と「A2A( Agent2Agent Protocol)」についてお話しします。
①MCPは、AIエージェントがユーザーの個人データや外部ツールに安全にアクセスし、自律的に行動できるようにするための接続インフラ
②A2Aによって、異なるAIエージェント同士が連携し、複雑なタスクを自動的にこなすことが可能に
③MCPとA2Aを組み合わせることで、AIエージェントは単なる賢いチャットボットから「頼れる実行型パートナー」へと進化する
そもそもAIエージェントって何でしたっけ
おさらいになりますが、「AIエージェント」とは簡単に言うと、「目的を持って自律的に動作するAI」のことです。チャットボットに代表される今までのAIは、聞かれたことに答えるだけでしたよね。でもAIエージェントは違います。「目的に応じて、能動的に情報を集め(観察)、自らの行動を計画し(計画)、計画に沿って実際に動作(行動)」するのです。まるで優秀な部下みたいに、自分で考えて動いてくれるわけです。
例えば、お客さんにメールを送るとき。普通のAIなら「こんな文面どうですか?」と一般的な内容を提案するだけ。一方AIエージェントなら、過去のやり取りを分析して個々に最適な文面を考え、必要に応じてメールを送信するところまで行ってくれます。「もっと詳しく知りたい!」という方は、以前に書いたこちらの記事で詳しく解説しているので、ぜひ読んでみてください。
AIエージェント領域では今、外部の情報・ツールや他のAIエージェントとのやり取りを通じて、もっといろいろな仕事ができるようにする「新しい技術(プロトコル)」が生まれています。それが今回のメインである「MCP」と「A2A」です。
MCP(Model Context Protocol)とは?
MCPは、AIエージェントが私たちの個人的なデータや、外部のさまざまな機能を使うための標準規格、「お作法」みたいなものです。「AI 用の USB ポート」と例える人もいます。例えばUSBケーブルがPCと他の機器をつなぐように、MCPはAIエージェントを外部のデータやツールにつなげてくれる、そんな代物です。
実際に使ってみた
例えば、AIエージェントに「高柳さんの体重推移をチェックし、そこから推定される健康状態に合わせたアドバイスをして、必要なら病院を予約して」とお願いしたとします。でもAIエージェントは、私の体重や健康診断の結果を知らないですよね? 試しにお手元のチャットツール(ChatGPTやClaudeなど)に「高柳さんの体重推移データに基づいて健康状態について教えて」というプロンプトを入力してみても、「そもそもそんな人の体重は知らない」と言われるでしょう。
これは皆さんのチャットツールが私の体重情報に接続されていないためで、至極当たり前の話です。MCPは、そうしたプライベートな情報に、AIが安全にアクセスするための規格として機能します。例えば普段使っているメールやカレンダーといったツール、自分のデスクトップ上のデータなどにもつなぐことができます。
さて、実は私(高柳)の体重情報はすでにMCPというプロトコルを介しておしゃべりできる状態、つまり「MCPサーバー化」されておりまして (インターネットの僻地に置いています。ここでの公開はしません!)、これをチャットボットのひとつであるAnthropic(アンソロピック)社のClaude(クロード)と接続し、AIエージェント化します。「2025年6月1日〜11日の体重推移データを可視化して、今の健康状態にアドバイスくれる? 食事面では何を食べた方がいいか、運動するならどんな運動するといいかも教えて」と聞いてみました。
すると、ClaudeはMCPでアクセスが許可されている私の体重データをちゃんと取得してきて、左側では健康に関する全体的なアドバイスを、右側では具体的な食事や運動プランまで提示してくれました。

「週初めに減少し、週末明けに上昇するパターンが見られます」という分析は、週末に家族との食事を楽しむので上昇する傾向があるという揺るぎないファクトを指摘しています……。ここで得られたアドバイスをもとに健康管理や減量に励んでいこうと思います。
AIエージェントが決められたお作法(MCP)に則って、私たちの許可した範囲でデータを活用してくれる。これがMCPの世界です。ここではAIエージェントの3要素(観察・思考・行動)のうち“観察(データ取得)”でのMCP活用でしたが、対応しているMCPサーバーがあれば、例えばおすすめの食材を購入してくれたり、ジムを予約してくれたりと、実際の“行動”へとAIエージェントの能力を拡張できます。
A2A(Agent2Agent Protocol)とは?
もう一つご紹介するA2A(2は英語のtoの意味)は、その名の通り「エージェントが、他のエージェントと会話する」ためのお作法です。ハイスペックな部下(AIエージェント)が一人いるだけでもすごいですが、専門分野の異なるハイスペックな部下たちがチームを組んだら、もっとすごい仕事ができますよね? A2Aは、まさにそれを実現する技術です。
例えば、スケジュール管理が得意なAIエージェントと、文章作成が得意なAIエージェントがいたとします。A2Aがあれば、この2つが協力して「明日の会議の議事録を作成して、参加者にメールで送る」なんてタスクを自動でこなせるようになります。
AIエージェントが注目を集める一方、異なるベンダーや枠組みで構築されたエージェントをどのように連携させるかが課題となっていました。A2Aはこの問題に対処するために、今年4月にグーグルが公表したオープンプロトコルで、BCGもその創設に貢献しています。50社以上の企業が参画していて、まさに業界標準になりつつある技術です。

AIエージェント同士が協力する未来
これらの技術によって、AIエージェントは単なる「賢いチャットボット」から、私たちの生活や仕事に深く入り込み、さまざまなことを自動で実行してくれる「頼れるパートナー」へと進化していくでしょう。人間とAIエージェント、そしてAIエージェント同士が協力する未来。なんだかワクワクしませんか? 次回もお楽しみに、Catch you later!

高柳 慎一
ボストン コンサルティング グループ
BCG X プリンシパル
北海道大学理学部卒業。同大学大学院理学研究科修了。総合研究大学院大学複合科学研究科統計科学専攻博士課程修了。博士(統計科学)。株式会社リクルートコミュニケーションズ、LINE、ユーザベースなどを経て現在に至る。デジタル専門組織BCG Xにおける、生成AIを含むAIと統計科学のエキスパート。