アバター技術がもたらす人の進化 石黒浩氏ら専門家が意見を交わす――大阪・関西万博「テーマウィーク」講演レポート

デジタルがもたらすつながりの可能性と問題点

セッション「デジタルを中心とした次世代のコミュニティ」でモデレーターとして登壇したのは、東京大学生産技術研究所 特任教授の三宅 陽一郎氏。パネリストにはNiantic社ゲーム/パブリッシング部門副社長川島 優志氏、順天堂大学大学院医学研究科グローバルヘルス専攻准教授ミョー・ニエン・アング氏、Spatial Dynamics CEOのキャシー・ハックル氏、X Corp. Japan(旧Twitter)代表取締役の松山 歩氏が登壇。オンラインコミュニティが社会の中で果たしている役割や、未来への展望について論を交わした。

現在、インターネット上のコミュニティは非常に発展し、ゲームなどのメディアやVR、ARなどの技術を介してこれまでになかった形のつながりが生まれている。さらに今後は、AIとよりリアルに会話ができたり、脳と機械を直接つなぐニューロインターフェースで脳に障害があり発話が難しい人等とコミュニケーションがとれたりと、新しいコミュニティが生まれていくだろうと目されている。

一方、デジタル技術から生まれた現在のコミュニティには懸念すべき点も少なくない。オンラインコミュニティとして代表的なSNSではフェイクニュースの拡散が問題になって久しい。「SNSが社会を分断している側面もあるのでは」と三宅氏から問いかけられた松山氏は、「SNSは社会を映す鏡であり、分断は社会そのものの問題でもある」と述べつつ、SNSの進化の過程で同じ価値観を持つ人々の意見だけが目に入るアルゴリズムが主流となり、自身の意見が強化される「エコーチェンバー効果」も発生していると説明した。

エコーチェンバー効果への対策として、松山氏は、Xではユーザー自身と真逆の意見の投稿でも「おすすめ」欄に表示するアルゴリズムを整備したと語る。また、Xが開発した対話型AI の「Grok」に「論破して」などと指示することで、反論やより幅広い意見を取り入れられるようにしたという。さらに、フェイク情報拡散防止にも「Grok」が利用されており、現在、Xの返信の中で「Grok」に「ファクトチェックして」などと指示することで、投稿されている情報が正しいか確認できる。

X Corp. Japan(旧Twitter)代表取締役の松山 歩氏は、対話型AI「Grok」がエコーチェンバー効果やフェイクニュース拡散の解消に貢献すると解説。

現在、インターネット上のパーソナライゼーション(個々人に合わせた情報を提供すること)の方向性は「アディクティブになっている(中毒性を持っている)」と松山氏は語る。さらに「今後はより人の興味・関心を広げるような、インタラクティブな方向に進んでいってくれればと思う」と続けた。

「空飛ぶクルマ」が都市・地方を持続可能にする?

持続可能な都市・地方への転換」のセッションでは、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの政治学教授アンドレ・ロドリゲス・ポゼ氏がモデレーターとして登壇。パネリストとしては経済協力開発機構のクレア・シャルビット氏、SkyDriveのCEO福澤 知浩氏、ケンブリッジ大学准教授のオズゲ・オナー氏、明治大学名誉教授の市川 宏雄氏が登壇し、都市が直面する課題と、その解決方法について語り合った。

現在、都市、そして地方は持続可能な形への変革を迫られている。一般的に「持続可能」というと自然環境保護を指したもの(環境的持続可能性)だと考えられがちだが、実際には持続可能性にはデジタル化・AI技術の発展などの大きな変化に対応する「経済的持続可能性」、すべての人の生活が公平に扱われ、生活の質が担保される「社会的持続可能性」も含まれるとポゼ氏は述べる。

こうした持続可能な都市・地方への変化には、モビリティの進化が欠かせない。社会的持続可能性と経済的持続可能性には人やモノをより効率的かつ公平に移動させ、人がどこにいても、平等に機会にアクセスできる状態をつくることが不可欠だ。また、移動に伴う二酸化炭素の排出量を減らし、環境的持続可能性も担保されなくてはいけない。

そこでSkyDrive・福澤氏が紹介したのがいわゆる「空飛ぶクルマ」と呼ばれる「eVTOL」だ。福澤氏は大阪・関西万博での「eVTOL」試験飛行の様子を紹介した。

SkyDriveのCEO福澤 知浩氏はいわゆる「空飛ぶクルマ」と呼ばれる「eVTOL」試験飛行の様子を紹介。
出典:テーマウィークYoutubeチャンネル「持続可能な都市・地方への転換」アーカイブ(2025年6月12日現在非公開)https://www.youtube.com/watch?v=GyxLaPVr2iI&t=7370s

「eVTOL」は、電動モーターを搭載し、垂直に離着陸ができる乗り物だ。移動スピードは自動車より速く、二酸化炭素排出量は電動自動車よりも低い。福澤氏は2027、2028年をめどに事業化を目指していると述べ、この乗り物が実用化されることで、過疎地域における移動手段不足の解消や、インフラ維持コストの低減、地域の多様性の保護にもつながるだろうと語った。

セッションでは他にも、公聴者との質疑応答が行われるなど、盛況を博した。

3つのトークセッションについて、テーマウィークの運営に携わったBCGパートナー&ディレクター、およびBCGヘンダーソン研究所(BHI)フェローの葉村 真樹は次のように述べる。「各セッションで、人間の進化の歴史と切っても切り離せない身体や共同体、そしてモビリティの強化・進化について語られていた。いずれも技術を活用してその人がその人らしく生きられる可能性を広く深く探る内容で、非常に示唆に富んでいたと思う」

各セッションの様子は、テーマウィーク公式ウェブサイトでアーカイブ配信を予定している。

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