BCGコンサルタント758人が実験 生成AIの効果的な使い方と意外な落とし穴

人間と生成AIの協働を考えるために

以上の結果は、企業にとって何を意味しているのだろうか。実験結果を考察したBCGのレポート「生成AIで価値を創出するとき、破壊するとき――実験結果からの考察」では、生成AIの導入についてビジネスリーダーが念頭に置くべきポイントとして、次のような観点を示している。

データ戦略の重要性に立ち返る

複数の企業が同じような業務に生成AIを用いた場合、実験でみられたように、業務の質のばらつきが大幅に減少する「平準化効果」が企業間でも生じる可能性がある。他社との差別化は、自社固有の高品質なデータをどれだけ大量に使用できるかにかかっていると言えるだろう。これは、言うは易し行うは難し、である。自社固有のデータを処理できる高度な能力は、すべての企業に備わっているわけではない。「人間では予期しなかった、もしくは人間の直観に反するパターンや相関関係を見つけ出す」という生成AIの強みを享受するには、まずは社内のデータエンジニアリング能力に注力すること。そして包括的なデータを整えることが大事になってくる。

職種とワークフローを見直す

すでに指摘した通り、生成AIが高いレベルでこなせる業務については、「生成AIを使って初期案を作成し、それを人間が修正する」というやり方を前提にせず、生成AIのアウトプットを妥当性の高い最終案とみなすべきだ。ガードレール(安全確保のための対策)に照らし合わせた確認は必要だが、それ以外の部分はそのまま使うのである。生成AIには、一部業務を肩代わりさせることで、人間がそこに費やしてきた時間・労力を他に向けられるという利点もある。従業員は生成AIにはこなせない仕事に注力することで、そのレベルをさらに高めていける

人材計画を戦略的に検討する

人材については、4つの検討事項が挙げられる。

①どのような組織能力が必要なのか
生成AIを「何に、どのように使うか」を判断するのは人間だ。では、生成AIの価値を最大化するには、どのような能力が最適なのか?その能力はどのくらいのスパンで変化するのか?LLMに関してはまさに今、この不確実な事態が現実のものとなっている。「プロンプトエンジニア(AIに指示を出す専門家)」という職種は1年前には存在すらしなかったが、2023年第2四半期には、需要が第1四半期の7倍近くに高まっている(GPT-4は第1四半期末頃、2023年3月14日に公開された)。しかし、複雑な問題を最適なプロンプトに分解する作業を生成AI自体ができるようになれば、プロンプトエンジニアはもはや不要となるかもしれない(自律型エージェント〔注1〕の登場により、まもなく現実化しそうだ)。

②採用戦略をどうするか
生成AIは、特定の業務については人材の習熟度を平準化することに優れているため、それが広く使われるようになれば、どういった人材が高いパフォーマンスを発揮するのか予測を立てるのが難しくなりそうだ。例えば、ある業務に対する基本的習熟度は低い一方、生成AIを使うととびぬけて高い能力を発揮する人材がいる場合もある。将来の採用戦略ではこうした人材を見つけることが目標になるかもしれないが、その手の人材が備えている特性はまだよくわかっていない。

③どのようなトレーニングが効果的なのか
研究結果で示されたように、人間は生成AIに頼りすぎてしまう場合があるため、人間のもつ先入観や思い込みに対処するトレーニングが求められるだろう。また、特定の業務が完全に生成AIに代替されたとしても、人間の監督が一定程度は必要になる。その場合、従業員が自分自身でやり方を学んでいない業務について、どのように監督するのかも検討しなければならない

④思考の多様性をどう育むか
集団の思考の多様性の喪失は、想像以上に大きな影響があるかもしれない。例えば、創出されるアイデアが均質化すれば、組織の長期的なイノベーション能力が低下する可能性がある。イノベーション能力が低下すれば競合他社との差別化が難しくなり、成長の可能性が加速度的に阻害されていく。良い面もある。各グループの多様性の程度はさておき、生成AIを使用したグループと使用しなかったグループの解答を比較したところ重複(類似性)は10%未満だった。つまり、人間が自力で生み出すアイデアと、生成AIの助けを借りて生み出すアイデアは大きく異なっている。結局のところ、生成AIを使う場合と使わない場合の両方のアプローチを用いて、アイデアの輪をさらに広げることが重要になりそうだ

実験能力を培う

生成AIシステムは驚異的なスピードで発展を続けている。現在は生成AIが不向きとされている作業でも、おそらくごく近い将来には問題なくこなすようになる。正確な見通しを立てるのが難しいことを考えると、生成AIがビジネスに与える影響を理解する方法は、実験能力を培うことに尽きるだろう。生成AIの変化にあわせて、人間と生成AIの協働の仕方も変わる必要がある。実験によっては、自社のビジネスにとって直感に反するような発見や、心穏やかでない発見もあるかもしれない。しかし今回BCGが自らの職種で行った実験のように、生成AIをどう活用できるか、活用すべきなのかについて洞察を深めることができるはずだ。

注1: 世の中のデータをつなぎ、自ら学習を繰り返すAI

レポート: 生成AIで価値を創出するとき、破壊するとき――実験結果からの考察(2023年10月)