食への適応と健康問題――シニア・パートナー森田の眼

日本を代表する食の研究者と対話する機会があった。ナッツが体に良いのは、昔、狩猟採集を行っていた時代の食事の中心で、1万年をかけて人間の代謝経路が適応してきたからだ、という。しかし、農耕文化は数千年前、加工食品は数十年前に生まれたもので、人間はまだ糖質や脂質の多い食生活に適応できていないから健康課題が出てくるらしい。大変感銘を受けた。

米国では超加工食品に関する議論が盛んになっている。超加工食品とは、添加物を付与し工業的過程によって作られる糖分、塩分、脂肪を多く含む保存性の高い食品を指す。これが健康によくないということで、禁止するべきではないかという論調もある。定義やエビデンスについての議論も白熱している。

また、米国では、食欲を抑制する作用を持つ「GLP-1受容体作動薬」のような薬品を注射してダイエットしようとする人々が急増している。興味深いのは、GLP-1のユーザーは、体に悪そうな食品への支出を減らす傾向があることだ。GLP-1は高額なため、ずっと頼り続けるよりも自らの食生活を変えた方が安上がりだということで、行動を変える契機となっているらしい。

この問題は、人々の「おいしいものを食べたい」「できれば手間をかけたくない」という食への欲望と健康意識のせめぎ合いという単純な構図では整理できない。医療費を抑制したい政府、加工食品メーカーや小売、医薬業界にとっての利益など様々なものが絡み合う。1万年待てば、進化することで解決するのかもしれないが、待ってはいられない。

※本記事は、2025年4月8日付の物流ニッポン新聞に掲載されたコラム「ちょっといっぷく」に掲載されたものです。物流ニッポン新聞社の許可を得て転載しています。