【アースデー】食品ロス、脱炭素…難題に挑む新時代の食料品企業

地球はいま、深刻な環境問題、そして食料危機に直面している。いずれも、世界全体の構造に起因する難しいテーマだ。そんな難題の解決に、ビジネスを通して挑む企業がある。ボストン コンサルティング グループ(BCG)が支援した食品業界の取り組み事例を紹介する。
食品ロス削減と農家の収益増を目指す:スーパーマーケットのデジタルプラットフォーム(オーストラリア)
食品ロスは深刻だ。世界的に見ると、食品の約3分の1が廃棄されており、その一方で飢餓に苦しむ人は全人口の10%もいる。
この問題を根本的に解決するには、食品業界全体での大きな変革が必要だ。従来の卸売・販売方法では、形や色が規格外である農作物が出荷できないことが非常に多く、たとえばオーストラリアでは、年間推定約360億豪ドル相当の農作物が廃棄されている。この問題を解決するには、これまでとは全く異なる方法で食料を供給する必要がある。
Woolworths Groupは、オーストラリアとニュージーランドで最大規模のスーパーマーケット事業を展開している。同社はこの食品ロスの課題に対し、デジタル技術を活用して抜本的な解決を目指した。
そのサービスが「Refresh Food」である。これは、農家が栽培した農産物を登録し、リアルタイムで簡単に買い手とマッチングできるデジタルプラットフォームだ。次のような流れで農家と買い手が直接取引できる。
- 農家が作物の種類、サイズや等級、提供可能な数量、包装形態などを登録
- 購入希望者が希望する作物を検索し、希望金額、価格、配送先住所などを送り農家と直接交渉(即時購入も可能)
- 配送日時や条件を合意し、取引成立
- 納品後、購入者が品質確認を行い、問題がなければ支払いが完了

Refresh Foodが目指すのは、生産段階での食品ロスを削減し、農家がより多くの収穫物を正当な対価とともに販売できる環境を整えることだ。そのために、取引のデジタル化によってエコシステム内で新たなつながりを創出し、買い手と売り手のマッチングを増やすことで、廃棄される農産物を最小限に抑えている。5年以内の目標として、Refresh Foodは「流通の上流段階での青果物の廃棄量を15%削減すること」「流通の上流段階における果物・野菜のCO2排出量を10%削減すること」を掲げている。
Woolworths Groupにとっても、この取り組みは自社の排出量を減らすことにつながる。サプライチェーンの排出量(スコープ3)は同社の総排出量の93%にのぼり、サプライチェーン上流である農家の排出量の削減が必須となるからだ。
この取り組みは、BCGとBCGのデジタル専門組織BCGXとのパートナーシップのもとで進められた。BCGとBCGXは、初期アイデアの検証からソリューションの構築、初期顧客の獲得、チームの採用、市場投入まで一貫して支援。コンサルタントが現場に赴き、実際のニーズに基づいて取り組みを進めるため、農家と協働した。
その成果はすでに表れており、Refresh Foodは、サービス開始からわずか数カ月で60万食以上の食事提供を実現し、2024年4月時点で100万食を達成した。また、この事業は「Profit for Purpose(社会的目的をもつ営利事業)」として設計されており、業界全体での食品ロス解決に向けて、競合他社との連携も積極的に進めている。
排出量が少なく栄養価は高い食品を:穀物加工企業の次世代小麦粉(イタリア)
脱炭素社会の実現に向けて、食品業界が担うべき責任は大きい。その一端を担おうとする企業の一つが、イタリアを拠点とする家族経営の企業、Casillo Groupである。1958年に設立された同社は、もともと製粉業を中心としたコモディティビジネスを展開していたが、時代の変化とともに、研究・開発と製品イノベーションに注力し、現在ではフードテック領域へと大きく舵を切っている。
同社が近年発表した小麦粉ブランド「Altograno」は、フードテック事業の取り組みとして象徴的だ。 Altogranoの生産はCasillo Group独自の循環加工法で行われており、小麦粒の最も栄養価の高い部分を無駄なく活用できている。これにより、従来の小麦粉に比べて次のように栄養が豊富に含有まれている。
- タンパク質含有量が最大50%増
- 食物繊維含有量が最大40%増
- 炭水化物含有量を低減
- マグネシウム、亜鉛、リン、カリウム、ビタミンB1を強化
また、味や食感にも妥協しておらず、パンや焼き菓子、ピザ、パスタ、フォカッチャなど、さまざまな用途に使える汎用性の高さも特徴だ。

このブランドは、脱炭素の観点からも注目度が高い。AltogranoのCFP(カーボンフットプリント、製品の原材料の調達から廃棄に至るまでのCO2排出量を示す指標)は従来の小麦粉から20%削減されている。独自の循環加工法は、従来の方法では風味や保存性の問題があるため取り除いていた栄養価の高い部分を分離し、油分のみを取り除いたうえで栄養素を再統合することで、原料の無駄を減らし、ライフサイクル全体のCO2排出量や水・エネルギー使用量を削減できている。
当初、Casillo Groupは、この小麦粉をこれまで通りBtoBで流通させるか、BtoCに乗り出して消費者に直接届けるべきか決めかねていたが、自社ブランドを立ち上げ、直接流通させることに決めた。この小麦粉を製造することにした背景には、「人にも環境にもやさしい」製品を目指す同社のビジョンがある。このブランドを通して同社の価値観を消費者に直接伝え、これまで市場で満たされていなかった「おいしくて、環境にも人にもやさしい(Better for you, Better for planet, Taste Great)」ものを求めるニーズを満たすことを目指した。
この取り組みにも、BCGは戦略パートナーとして深く関与した。戦略の立案からブランドの立ち上げまで、5カ国以上から集められたBCGの専門家がCasillo Groupと密に連携をとり、同社のビジョンを具体化する支援を行った。
環境負荷の低減と栄養価の向上を両立させるAltogranoのような製品は、今後の食品業界に求められる変革の一例だ。ビジネスの枠を超えて社会課題の解決を目指すこうした取り組みは、次世代の食品業界の在り方を示す重要な道標となるだろう。
参照:Food Systems & Food Security Consulting | BCG、Refresh:Food Buyers 、Altograno® | Un ingrediente buono e nutriente