パーソナライゼーションとは?海外事例と独自調査でわかったメリットや注意点

パーソナライゼーションとは、簡単にいうと、顧客データを活用し、各個人に合わせてカスタマイズした情報やサービスを提供するマーケティング手法だ。日本では「パーソナライズ」とも呼ばれる。
この記事では、パーソナライゼーションの意味を具体的な事例とともに解説。さらに、メリットと実施する場合の注意点などについて、ボストン コンサルティング グループ(BCG)の独自調査の結果とあわせて紹介していく。
目次
パーソナライゼーションとは?世界の事例を紹介
冒頭で述べたとおり、パーソナライゼーションとは顧客一人ひとりの嗜好や行動データを活用し、最適な情報やサービスを提供する方法だ。例えば、ECサイトではユーザーの閲覧履歴や購入履歴をもとにおすすめの商品を表示する、メールマーケティングでは個々の興味関心に基づいたコンテンツを配信するなど、多くの場面で活用されている。
具体的にはどのような手法があるか、世界大手企業で行われている具体的な事例を紹介する(2024年12月時点のもの)。
マリオット(ホテル業界)
マリオットは、パーソナライズされた最上位会員向けサービス「アンバサダーサービス」で、専任の担当者による個別対応を提供している。これは、旅行滞在中の「サプライズ&デライト(驚きと喜び)」が顧客の記憶に残りやすいことから、顧客との関係強化を目指す施策だ。
スターバックス(飲食業界)
スターバックスは、バリスタがカップに顧客の名前を書くサービスを再開すると発表した。このサービスもパーソナライゼーションの一つであり、毎朝コーヒーを飲む際、顧客一人ひとりに合わせた特別感を演出する施策だ。
メイシーズ(小売業界)
メイシーズは、会員プログラム「レッドカーペット」を試験的に導入。専属のコンシェルジュの利用やスタイリストの優先予約、会員限定の割引といった会員サービス特典を個別に提供することで、顧客の購買意欲を高めている。
パーソナライゼーションの3つのメリット(独自調査より)
パーソナライゼーションは、従来のマスプロモーションとは異なり、顧客に合わせたカスタマイズが可能となる。そのため、顧客とよりよい関係を築けることや売上の増加につながることが企業にとってのメリットだ。
2024年に実施したBCGの調査では、消費者がパーソナライゼーションに関して感じているメリットも明らかになった。パーソナライズされた購買体験で気に入った点を尋ねる設問で、回答が多かった選択肢は「割安な価格が見つかった」「より楽しい体験ができた」「利便性が上がった」となった(図表1)。
以下、それぞれについて解説していく。
1. 割安な価格が見つけられた
パーソナライゼーションで得られた良い体験として、消費者が最も多く挙げたのは「割安な価格が見つけられたこと」であった。特に、個別に最適化されたオファーや割引は消費者にとって魅力的な要素であり、量販店やスーパーマーケット、チェーンの飲食店での成功例は多い。ただし、企業が安さのみに焦点を絞ってしまうとブランドと消費者個人との結びつきが薄まってしまうため、注意すべきだといえる。
2. より楽しい体験ができた
顧客は、パーソナライズされたマーケティングを好む理由として、より楽しい体験ができることを挙げている。パーソナライズされた購入体験は単なる購買行動を超え、顧客のブランドに対する感情的なつながりを強める。前述したマリオットやスターバックス、メイシーズのサービスはこの例で、長期的なロイヤルティ向上に寄与すると考えられる。
3. 利便性が上がった
利便性向上もパーソナライゼーションの大きなメリットだ。通販サイトでのワンクリックでの購入や、飲食店のアプリでの再注文機能などにより、顧客はストレスなく目的の商品やサービスを利用でき、企業側も実際の購入や利用につながる割合(コンバージョン率、CVR)の向上を実現できる。
パーソナライゼーションの注意点(独自調査より)
パーソナライゼーションの注意点は、過剰、または的外れなものになったときに顧客を遠ざけてしまうことだ。
現在、基本的には、パーソナライゼーションは消費者に受け入れられているといえる。BCGが2023年に行った調査で、世界の消費者の約80%(日本は約74%)がパーソナライズされたマーケティングに抵抗がない、または抵抗が少しあっても受け入れられると回答した(図表2)。
一方で、3分の2の回答者が最近1つ以上のブランドから不正確、または過剰なパーソナライゼーションをされた経験があるとしている。こうした経験が原因で、多くの消費者は
- 定期購入を解約する
- そのブランドとの関わりを絶つ
- 店に立ち寄らなくなる
といった行動に出ていることがわかった。
適切なパーソナライゼーションの方法
企業が間違ったパーソナライゼーションを避け、適切な施策を通して最大限効果を得るには、まずデータを適切に集め、顧客を知らなくてはならない。データを収集・活用する際の原則は、以下のとおりだ。
- 顧客から直接情報を提供してもらえるように工夫する
- 自社で取得したデータを最大限活用する
- 外部データは正確性に留意しつつ使う
データが整ったら、次はAI活用やコンテンツ、社内プロセスの整備などについて考えていく必要がある。各原則と次のステップについて、次から詳しく解説する。
顧客から直接情報を提供してもらえるように工夫する
アンケート等を通して顧客が自発的に提供する情報(ゼロパーティデータ)は、最も価値のあるデータだ。一方、企業に自分の情報を提供する顧客は「情報提供することによって体験が向上するだろう」という期待を抱く。よって、顧客から情報を直接収集する際は、以下の点に注意するべきだろう。
- データを収集する目的や利用方法、顧客が得られるメリットについて正直に伝える
- 本当に必要な情報を絞りこみ、テストを行って最適な質問文やフォーマットを探る
自社で取得したデータを最大限活用する
企業が顧客との取引から収集する情報(ファーストパーティデータ)は、パーソナライゼーション施策の基盤となる。企業は、以下のような施策を通し、データ管理の基盤を構築するべきだ。
- リアルタイムでおすすめを出すために、適切な頻度でデータを更新する
- 顧客のデータを統合し、異なるデータソース間で顧客の識別を正確に行う
- 世帯単位ではなく個人単位でのデータ統合を進めることで、より正確な顧客プロファイルを作成する
外部データは正確性に留意しつつ使う
外部から取得するデータ(サードパーティデータ)は、サードパーティCookie(※)の減少で、取得自体が難しくなっている。しかし、地理的情報や価値観など、顧客情報を充実させてセグメンテーションをするためのデータとしては依然として有用だ。常に新しいデータソースをテストし、最も有用なデータを選んで使用する必要があるだろう。
※ ユーザーが訪れているWebサイトとは異なる第三者(例えば、広告やトラッキングを行う会社)によってブラウザに保存される情報のこと。なお、Cookieはウェブサイトがユーザーのブラウザに保存する小さなデータで、主にサイトの利用状況やユーザーの設定情報を記録する
データ整備後はAI活用や人材・社内プロセスについて検討する
このように顧客に提供すべき成果を明確にし、そのための適切なデータを整えてはじめて、企業は本格的なパーソナライゼーションに向けて動き始めることができる。さらにAIを取り入れ、テクノロジー基盤やコンテンツ、そして社内の人材・プロセスを整えていくことで、パーソナライゼーションを武器にできるだろう。
参照記事
- BCGのパーソナライゼーションに関するページ:Personalization Consulting and Strategy Services | BCG
- BCGのパーソナライゼーションについての調査に基づく論考:What Consumers Want from Personalization
- BCGのパーソナライゼーションについての書籍『Personalized: Customer Strategy in the Age of AI』:Personalized: Customer Strategy in the Age of AI
- AIとパーソナライゼーションについての論文(ハーバード・ビジネス・レビュー):Personalization Done Right