AIに「2500万ドル以上投資」する企業の割合は日本が世界最多―BCG調査

AI、特に生成AIは登場当初、世界に大きな興奮をもたらした。2025年現在の焦点は、いかにこの技術を使いこなして価値を創出するかという点に移りつつある。
BCGは、日本を含む世界19市場12業界、年間売上1億ドル超の企業の経営層1,803人を対象にAIに関する取り組み状況を調査した。結果からは、引き続きAIは経営の重要項目として注視されており、次のムーブメントとして「自律型AIエージェント」が期待を集めていることがわかった。その一方、人材のアップスキリングが追い付いていない現状が浮き彫りになっている。
約半数の日本企業が「2,500万ドル超をAIに投資予定」と回答
調査からは、回答企業の3社に1社が2025年、AIに2,500万ドル超を投資する計画であることがわかった。AIは引き続き、世界中の経営層にとって最優先事項であるといえるだろう。特に日本企業は、約半数が2,500万ドル超の投資を予定しているとした(図表1)。諸外国と比較して、この割合は最多である。
AIによる価値創出のポイントは「狭く、深く」
AIで成果を上げている「AI先進企業」は、AIへの投資の80%以上を、基幹機能の再構築や新たな価値提供の創出に充てている(参考: AI Unlocked: Value Creation with AI )。一方で、他の企業はAIへの投資の56%を、生産性向上を目的とした小規模な取り組みに注力させていることがわかった。また、先進企業は明確な目標を設定し、売上高や利益への影響を追跡している。しかし、調査に回答した企業の60%は、AIによる価値創出に関連する財務KPI(重要評価指標)の定義、およびモニタリングができていない。
さらに、AI先進企業では優先的に取り組んでいるユースケースが平均して3.5件である一方、他の企業では6.1件と分散している。この「幅広さ」よりも「深さ」を重視する集中型アプローチにより、AI先進企業は、他社に比べて2.1倍高いROI(投資利益率)を達成すると予測されている。
AIエージェントが新たなトレンドに
AIエージェントとは、ツールの活用、データ分析、システム間の連携を通じて、人間の介入が最小限で目標を達成する自律型AIシステムだ。現在は導入の初期段階にあるものの、すでに67%の経営層がAIトランスフォーメーションの一環として活用を検討している。
この傾向は国や地域を問わずに高く、日本でも72%の経営層が何かしらの形でのAIエージェント活用を検討していることがわかった(図表2)。
AIでの人員削減は限定的、アップスキリングが課題に
調査の回答者のうち68%は、自社の従業員数を現在のまま維持することを想定しており、AIによる生産性の向上や、既存の人材をAIニーズに適応させるためのアップスキリングに注力するとした。しかし実状は、従業員の4分の1以上にアップスキリングを実施したと答えた企業は、全体の3分の1未満にとどまっている。この数字は昨年からは改善しているものの、従業員がAIテクノロジーに適応し、雇用に対する安心感を持てるレベルには程遠い状況だ。

さらに、回答者の17%は、AI導入によって役割の見直し、および従業員構成の見直しの必要があると予測しており、8%は新しいスキルを取り入れるために従業員数の増加が必要と見込んでいることがわかった。一方、AIによる自動化に伴って人員削減を予測している回答者は、7%にとどまった(図表3)。
BCGのデジタル専門組織BCG Xで日本における生成AIトピックのリーダーを務めるマネージング・ディレクター&パートナーの中川正洋は次のようにコメントしている。「日本企業のAIへの投資の意向は世界的に見ても高く、今後は、実際に価値を創出することがより重要となってくる。そのためには、投資を分散させず、限られたユースケースに集中して資金投入する、KPIを決めてモニタリングするといった取り組みが欠かせない。また、AI導入に伴う人材削減の動きは非常に限定的で、既存人材のアップスキリングが急務といえる」
調査レポート: From Potential to Profit: Closing the AI Impact Gap(2025年1月15日)