一休・榊淳社長が語る データドリブン経営のすすめ

宿泊・飲食の予約サービス「一休.com」を運営する一休。BCGのアラムナイ(卒業生)でもある一休の榊淳社長は、「データドリブン経営」こそ、一休が急成長を続ける秘訣であると語る。「データドリブン経営」とは何か、どのように実践しているのか、榊氏がBCGで講演した。

どうやって「売り方」を差別化するか?

戦略の差別化には大きく「商品」の差別化と、「売り方」の差別化がある。一休は、ホテルや旅館、レストランなど取り扱う商品が同業他社と同じため、「売り方」が差別化ポイントになる。「売り方」を差別化するには、①仕入れ、②売り場、③プロモーション、④プライシングの大きく4つのプロセスを検討する必要があるが、一休では特に②~④のプロセスに注力し、データドリブンの施策を導入している。

徹底したパーソナライゼーションで「売り場」を最適化

一休の「売り場」はWebサイトだ。このWebサイト上で行われる顧客体験=予約体験を差別化するために、一休が徹底しているのが、パーソナライゼーションによるリコメンドである。

例えば、検索結果をパーソナライズしている。同じ検索条件でも、過去のサイト内検索の結果を踏まえて、例えばAさんには比較的手ごろな価格帯のホテルを、Bさんには高価格帯の高級ホテルをおすすめに表示するなど、顧客別に最適化して表示している。

また同じ顧客でも、1人で泊まるのか、3人で泊まるのかなど検索条件によって検索結果を変えている。1人ならビジネス利用と想定しビジネスホテルを検索に出し、3人1室ならファミリー利用と想定してコンドミニアムのような宿を検索に出すなど、利用用途を推測して検索結果を変えている。

トップページに表示する宿も顧客によって変えている。ログインしていない顧客に対しては、オーソドックスに最も売れている人気宿を表示させるが、榊 淳さんでログインすると、私の好みに合わせたラインナップを表示させる。トップページの検索結果を改善するだけで、年間数十億円もの売り上げ改善につながるため、日々チューニングを行い最適化している。

顧客の多種多様な関心事にあわせて「プロモーション」を最適化

一休は主に、メールを通じて顧客にプロモーションをしているが、ここでもパーソナライズを徹底している。例えば、サイトを訪問して、軽く閲覧しただけの場合は、まだ旅のプランが具体的でないと想定し、リコメンドのメールは送らない。一方、日付を入れて検索した場合は、旅のプランを具体的に考えながら宿を検討していると推測し、検索した宿と類似した宿を紹介するメールを送る(図表2)。

顧客の関心は「空に浮かぶ雲」のようなもので、顧客によって関心のある雲の形は全く異なる。関心が“日光”や“銀座”など「宿のエリア」の人もいれば、“露天風呂付の旅館”や“シティホテル”など「宿のタイプ」の人もいる。この多種多様な雲の形を顧客行動データから読み取り、最適なコミュニケーションを行うことが重要だと考えている。

ターゲティング顧客を選定し「価格」を最適化

今回は顧客別プライシング(価格戦略)の取り組みを紹介したい。一休では、クーポンやポイントで割引している。すべての顧客に等しく割引を提供すると一休の取り分である利益がなくなってしまうので、ターゲット顧客を厳選し、効率的に販売促進を行う。対象とするのは、以下のような顧客だ。
 ・購入額は大きいが、購入確率が低い
 ・いま購入をためらっていて、割引によって購入確率が上がる

購入確率や購入金額は機械学習モデルを組んで予測する。過去にWebサイトに訪問したが購入しなかった顧客の情報(X)と、その後に購入したかどうかの情報(Y)を使ってモデルを作り、学習させる。このようにすることで、いまWebサイトを訪問していて、まだ購入していない顧客の購入確率や購入金額を予測することができるようになる。

購入確率と購入金額が正確に予測できると、顧客一人ひとりにあわせた最適なプライシングが可能になり、効率的に割引を使って売り上げを増やし、利益を維持する仕組みをつくることができる。一休ではリアルタイムで顧客別プライシングを行っており、顧客がWebサイトを閲覧しているまさにその時に、割引のプロモーションメールを送っている。

重要なのは、顧客行動データから顧客をしっかり理解すること

一休では私自ら、顧客データを細かく分析し、およそ100枚のレポートにまとめて毎週、全社員向けに配信している。こうすることで、事業状況を共有しながら、無駄な報告業務を排除し、社員が生産性の高い業務へ注力することができる。

企業をデータドリブンに変身させることは、「個の力」でも可能だ。そして、データドリブンに変身させる方法は、ある程度、方法論として存在する。皆さんも、顧客の姿を徹底的にデータで捉え、分析し、顧客により良い体験を提供する「データドリブン経営」を実践してみてはどうだろうか。