現場で働く「デスクレスワーカー」離職防止の鍵は仕事の楽しさ BCG調査

デスクレスワーカーとは、多くの仕事において、特定の施設や現場にいなければならない従業員のことだ。デスクレスワーカーは、医療や教育、製造など重要な分野で活躍しており、世界の労働人口の約80%を占める。これらの仕事は肉体的に負担が大きいうえに給与も低く、社会的に不可欠な業務にもかかわらず十分に評価されていないことも少なくない。

デスクレスワーカーは企業の利益に大きな影響を与える。米国の会員制量販店コストコや食品スーパーのトレーダー・ジョーズのように従業員重視の企業では、エンゲージメントスコアや満足度といった従業員関連の指標の高さが、顧客満足度や従業員1人当たりの売上高など事業関連の指標の良好な結果に直結している。

デスクレスワーカーの離職率に仕事の楽しさが関係

BCGの調査結果によると、デスクレスワーカーの離職防止には、オフィスワーカー(コンピューターとインターネット接続さえあれば通常どこでも働ける従業員)以上に仕事を楽しむことが重要であることがわかった。仕事の楽しさはオフィスワーカーの離職率を49%下げるのに対し、デスクレスワーカーの場合62%も減少させる。

仕事の楽しさがデスクレスワーカーとオフィスワーカーの転職検討率に与える影響を示したグラフ

また、業種によって、デスクレスワーカーの仕事に対する満足度にはばらつきがある。例えば、全体では年齢が高い従業員や勤続年数が長い従業員は仕事を楽しむ傾向が高いが、小売、物流、教育業界は、ほかの業界よりも年齢が高く勤続年数が長い従業員が多いにもかかわらず、仕事に対する満足度は低かった。これらの業界の従業員は、仕事に対する喜びを妨げる主な理由に「燃え尽き感」(26%)、「賃金が低いと感じる」(23%)、「敬意が払われていないと感じる」(18%)といった点を挙げていた。

デスクレスワーカーが感じている仕事の楽しさを業界別に示したグラフ

非管理職はマネジャーに比べ仕事の喜びが少ない

デスクレスワーカーの中でも、管理職よりも非管理職の従業員の方が喜びのスコアが10%低く、離職リスクは9%高かった。非管理職は自社・自組織や同僚とのつながりをあまり感じておらず、マネジャーからのサポートが不足していると感じ、仕事に対する誇りや職場での公平性についても低く評価していることもわかった。

この「喜びのギャップ」は、職場環境全般について尋ねたときだけでなく、日々の業務そのものの楽しさについても見られた。1週間を振り返ってもらい、さまざまな業務に費やした時間と各業務の楽しさについて調べた結果、非管理職はすべての業務においてマネジャーよりも一貫して喜びが少なく、より多くの時間を楽しくない業務に費やしていた。

セフォラ、トレーダー・ジョーズの改善例

仕事が常に楽しいものである必要はなく、従業員は日常の一部としてある程度の「労苦」を受け入れている。1週間の喜びと労苦の内訳を調べた結果、転職を考えていないデスクレスワーカーは週に約8時間を労苦に費やしていることがわかった。この8時間の労苦は18時間の楽しい仕事で相殺されている。一方、オフィスワーカーは労苦への耐性が低く、労苦に費やすのはわずか週4時間、これを14時間の楽しい仕事で相殺している。

さらに重要なのは、喜びも労苦もない仕事がどれほど多いかという点だ。この「中立的な」業務が非管理職の勤務時間の75%近くを占めている。こうした業務の一部を、楽しさを感じられるものにする余地は大きい。

例えば、フランス発の化粧品小売店セフォラは、顧客が接客を求めているかどうかを示す色分けされた買い物かごを導入した。これにより、従業員は不必要に顧客を邪魔することなく、より充実した接客ができるようになった。

トレーダー・ジョーズでは、多くのスーパーが夜間に棚を補充するのに対し、日中に補充させることで、従業員と顧客の間に自然な交流が生まれ、従業員の孤独感を減らすことができた。

このような取り組みは、仕事そのものをより楽しくするための一例だ。だが多くの場合、従業員体験(エンプロイー・エクスペリエンス、EX)は、日々の業務に直接影響を与えることの少ない人事部門に任されてしまう。そうではなく、現場のリーダーが、効率や効果を損なうことなく業務のあり方を見直し、従業員が楽しめる環境づくりをすることが重要だ。従業員体験の向上は、日常業務そのものを改善することでしか実現できない。

従業員の基本的ニーズを満たし、喜びや労苦の要因を理解する

BCGの調査では、仕事を楽しくすることがいかに重要であるかが示されているが、仕事の喜びがすべてを解決するわけではないと理解することも大切だ。特に、経済的不安による離職リスクは喜びでは解消できない。いまの収入では生活費を賄えないと感じている人のうち、仕事を楽しんでいる人の離職リスクは45%で、生活費を賄えないと感じ、かつ仕事を楽しんでいない人の54%を下回るが、それでも回答者全体の割合41%を上回っている。

企業は、生計を立てられるだけの賃金や安全な職場環境の提供など、従業員の基本的なニーズを満たさなければならない。こうした基本的なニーズを満たしたうえで、従業員に「あなたの1日に喜びをもたらすものは何か?」「日々の生活で最も大切にしていることは何か?」と尋ねる必要がある。喜びや労苦の要因を理解することで、リーダーは従業員にやる気と喜びをもたらし、真の価値を引き出せる。

調査レポート:Deskless Workers Want to Enjoy Their Work, Too(2024年10月)