独自性を大切にする企業の今後――京都オフィス責任者に聞く
歴史と文化が息づく一方で、先端産業も発展する京都。年間7,500万人以上の観光客が訪れ、観光業や製造業を中心にGDP約11兆円の経済圏を形成している。ユニークで魅力的な街を拠点にする、京都の企業の特徴や課題とは? ボストン コンサルティング グループ(BCG)京都オフィスの責任者をつとめる、植田 和則が語った。
老舗企業に際立つ存在感、今後は伝統産業も含めて広がるイノベーションに期待
――さまざまな業界のグローバル企業が本社を構えている。改めて京都経済の現状をどのように捉えているか
京都の経済界において、グローバルに存在感を示している企業は、実は老舗企業が多い。例えば、島津製作所やGSユアサは創業100年を超えている。一番若いグループのニデックも、創業50年を超えた。加えて、再開発やベンチャーの育成活動も活発だ。京都市では、JR京都駅の南側地区に企業やラボを誘致するプロジェクト「京都サウスベクトル」を立ち上げた。また、日本最大級のスタートアップカンファレンスである、IVS (Infinity Venture Summit)が2年連続で開催されており、東京に次いでベンチャー領域で注目の高い地域となっている。
――それでは、京都経済の未来は明るいと考えてよいか
今の状況を見ると、必ずしもそうとは言い切れない。先に述べたように、50年以上前に現在の老舗企業がベンチャーとして誕生し、その後グローバルに羽ばたいていって今日がある。しかし、その後が続いているとは言い難い部分がある。確かにベンチャー企業の誘致・育成に力は入れているが、次の弾が揃いきるのはまだ先の印象だ。現状は成熟した強い企業が京都経済を牽引しているのが実態であり、これから50年、100年の見通しが、手放しに明るい見通しかと言われるとわからない部分が大きい。
一方で、酒造や染織など、伝統産業でイノベーティブな挑戦をしているプレイヤーは少なくない。例えば、西陣織の老舗、細尾が面白い例だ。これまで西陣織は主に着物の帯地として生産され、細長い反物の形状であったため、用途が限定的だった。そこで、細尾は150cm幅の布地を生産できる織機を開発した。
その結果、絨毯などのインテリア製品が生まれ、ラグジュアリーブランドのブティックや高級ホテルの内装に採用されるようになったのである。こうして、歴史の中で培った技術や芸術性が、新たな形でグローバルマーケットに受け入れられる。このような、伝統産業を軸とした様々なエコシステムが広がれば、京都経済の未来は明るいだろう。
各社の独自性が強み、人材、情報、政府との連携に課題
――企業の特徴は、どのようなものか
京都の企業といっても、大規模な企業の数は東京などと比較すると少なく、類型化するのは難しい。あえて言うと、「人の真似をしない、自分たちのアイデンティティに対する強いこだわり」こそが、最大の特徴と言えるだろう。
京都には、さまざまな業界で老舗企業が存在する。それらの事業内容や経営方針は一様ではないが、いずれも世界が認めるユニークさと実力を備え、独自の文化を貫いている。多くの東京や大阪の企業は、最適解を求めるのに対し、京都の企業は教科書的な正しさを気にしすぎない傾向が強いと感じている。人と違うことをする、それが京都の企業が昔から大切にしている価値観なのではないだろうか。
――京都の企業の抱える課題は
1つ目に、グローバル人材の確保が挙げられる。人材確保は京都の企業に限らず日本全体で深刻な課題だが、京都を代表する企業はほとんどがグローバル企業だ。日本国内だけではなく、海外拠点・子会社などでビジネスをリードする人材を確保する必要がある。急速な人口減少を前提としながら、企業として成長を続けつつ優秀な人材をいかに確保するかという、根源的な問いに直面している企業が多いと感じている。
2つ目は、多面的な情報へのアクセスである。東京では、この10年でベンチャーや投資家の層がかなり厚くなり、大企業も含めた人材の流動が若い世代を中心に活発になっている。その結果、ネットワークが広がり、得られる情報の幅や視点が豊富だ。京都では、ビジネスプレイヤーや人材の流動性などの点で、情報ネットワークやアクセスを拡大するには、より積極的な取り組みが重要になる。
3つ目は、政府との付き合い方だ。昨今政府が経済成長やイノベーションを主導する動きが活発だが、京都の企業はそこが好きではない人が多いように感じる。しかし、政府・行政との積極的でポジティブな付き合い方は、ビジネスチャンスを広げる可能性もある。
独自性を重んじる企業に寄り添う姿勢が重要
――京都の企業に対し、BCGができる支援はどのようなものか
京都の企業には、独自の経営スタイルが深く根付いており、それぞれが長年培った自分たちのやり方を大切にしている。そのため、教科書的な正解や、世間のトレンドをそのまま取り入れることに慎重な傾向がある。新しいアイデアを導入する際にも、文化や過去の経緯を大切にしながら推進する必要があり、その調整が難しいと感じる企業が多い。BCGは、一つの答えを押し付けるのではなく、各企業の独自性を尊重しながら柔軟に支援するスタイルを取っており、このアプローチは京都の企業に非常にマッチしていると感じている。
BCGの京都オフィスで働くメンバーは、地域への貢献に強い思いを持っている。ここ数年、京都市や京都府と協力し、地域の発展に寄与できる取り組みを模索してきた。こうした活動は、時に仕事を離れた場面で自然に生まれることも少なくない。東京オフィスと比べると京都オフィスは小規模で、社員同士の連携が取りやすい。声をかけてすぐにプロジェクトを進められる環境が、様々な新しい取り組みを生み出す原動力となっている。
植田 和則
BCGマネージング・ディレクター&パートナー
2007年にBCGに入社。BCGウィーン・オフィスに勤務した経験もある。BCGテクノロジー・メディア・通信グループ、コーポレートファイナンス&ストラテジーグループのコアメンバー。京都オフィス管掌。電機、FA機器、輸送機器等製造業、および運輸など幅広い業界の企業に対し、トランスフォーメーション、ビジネスモデル変革、ターンアラウンド、新規事業開発などのプロジェクトを数多く手掛けている。