ハードウェア依存の自動車からソフト中心の「SDV」へ 進むテクノロジーとの融合

自動車は今やデジタルテクノロジー製品になりつつある。BCGと世界経済フォーラム(WEF)の最新の調査によると、ソフトウェアを中心に開発される自動車「SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)」は、2030年までに自動車業界に6,500億ドル以上の価値を創出する可能性がある。自動車産業とハイテク産業の境界が曖昧になる中、自動車業界のプレーヤーがこの変化を乗り切るうえで重要な5つのインサイトとは。

自動車業界に6,500億ドル以上の価値をもたらす可能性

自動車業界では自動車産業とハイテク産業の融合が急速に進み、2つの大きな変革が起きつつある。内燃機関(ICE)車から電気自動車(EV)への移行、そしてハードウェアに依存した従来の自動車からSDVへの移行である。

BCGとWEFが発表したレポート「Rewriting the Rules of Software-Defined Vehicles」では、勢いを増しつつあるSDV領域が今後10年で進化を続け、2030年までに自動車業界に6,500億ドル以上の価値(注1)を生み出すと予測している。これは、世界の自動車関連の市場規模の15~20%に相当する見込みだ。さらに、車載ソフトウェアと電子機器による自動車メーカー(OEM)の収益は、現在から2030年までに870億ドルから2,480億ドルへと約3倍に成長。車載ソフトウェアと電子機器のサプライヤーの市場規模は、2,360億ドルから4,110億ドルへと約2倍に拡大すると分析している。

産業横断のパートナーシップやコラボレーションが重要

企業の多くはこれまで、独占的な立場を築くべく個別のソリューションを独自に開発しようとしていたため、パートナーシップの締結は限定的だった。しかし、SDVをめぐる技術的複雑性や、エコシステムがもたらす恩恵を考慮すると、今後はパートナーシップの締結や産業横断のコラボレーション(協業)が不可欠になる。それによって、スケールメリット(規模の経済)を狙った規模の拡大や、安全性の向上、顧客の要求への対応が可能になると考えられるからだ。

BCGは、SDVへの移行という変革をさらに推進するために、自動車業界のプレーヤーに向けて5つのインサイトを提示している。

①SDVへの変革はその動きの複雑さゆえに難易度が高いが、スケールメリットを享受するには産業横断のコラボレーションが重要な役割を果たす。

②コラボレーションは、SDVに関連する部品、特徴、機能など、技術の構成要素の分類を産業横断で共有するところから始める必要がある。

③相互運用可能なプラットフォーム開発を進めることで、産業横断のコラボレーションが可能になり、自動車業界の収益性も高まる。

④イノベーションの速度、ユーザーの特徴、規制は地域ごとに異なるため、各地域の特性にあわせたコラボレーションが求められる。

⑤パートナーシップが重要となる世界で成功するためには、組織内外のコラボレーションに必要な影響力を、オペレーティングモデルに根差したかたちで構築する必要がある。

SDVを構成する6層の技術モデル

②の観点で、WEFとBCGが立ち上げた取り組み「Automotive in the Software-Driven Era initiative」では、SDVを構成する6層の技術モデルを提示している(図表は低層から上層にかけて各層の働きを例示)。この取り組みには、自動車、新型モビリティ、ハイテク産業の大手30社以上が参加している。このモデルは今後の開発やコラボレーションの際に、技術要素への理解を共有するうえで役立ちそうだ。

BCGで自動車テクノロジービジネスに関するグローバルリーダーを務めるチューリッヒ・オフィスのAlex Kosterは「SDVがもたらす変化は非常に大きい。ソフトウェアは製品の中核となる競争優位性の源泉、イノベーションを実現する方法と速度、自動車製造における企業や業界全体の役割、そしてエンドユーザーとの関係を一変させる。SDVと、先進運転支援システム(ADAS)などの重要機能を実現するには、自動車企業とテクノロジー企業の“DNA”を組み合わせることが、これまで以上に求められる」と指摘している。

注1: サプライヤー市場、および消費者市場を含めた、世界の車載ソフトウェア・電子機器市場に生じる価値を収益ベースで推計

調査レポート: Rewriting the Rules of Software-Defined Vehicles(2023年9月)