第5回 生成AIのトレンドは「低価格化、高速化、多様化」 ――ちょっとだけマニアックなAIの話

世界の皆さん、おはようございます、こんにちは、こんばんは。BCG XのプリンシパルAIエンジニア、高柳です。生成AIの進化は相変わらず目まぐるしいですね。一口に“進化”と言っても、それは「アウトプットや受け答えが人間っぽくなってきた」という意味での性能向上にとどまりません。現在、注目すべきトレンドは3つあります(コンサルっぽいですね!)。それは①低価格化、②高速化、そして③多様化です。 


今回のポイント

  • 生成AIのトレンドは①低価格化、②高速化、③多様化
  • 速度や価格がネックだった領域でも、生成AI活用のハードルが下がり始めている
  • 人間との対話が求められるビジネスシーンで、オペレーションがガラッと変わる

最近ではメタのLlama(ラマ)3やオープンAIのGPT-3.5 Turboといった生成AIモデルが、API1形態での利用で100万文字(トークン)の読み取り・生成にかかるコストが1ドルを切るなど安価になり、“コモディティ化”が進んでいます(図表)。また、ローカルのPCで動かせるようになってきたこと、つまりAPIを介してではなく、システム構築やデータ処理に使うGPU(画像処理半導体)がなくても生成AIが利用できるようになってきたことも、この傾向に拍車を掛けています。 

生成AIの低価格化と高速化の動向。低価格化の面では、ラマ3やGPT-3.5ターボなど、API利用における100万文字当たりの値段が1ドルを切る安価なモデルも出現。全体として価格は低下傾向。高速化の面では、ジェミニ1.5フラッシュ、クロード3ハイク、ラマ3など、1秒当たり100文字以上を生成するモデルが続々出現。全体として速度は上昇傾向。

こうした①低価格化により「これまでコストやROI(投資対効果)の観点で実施したくてもできなかった案件」を実現させる道筋が見えてきました。例えば、数十万人規模のユーザーへの生成AIサービスの提供、大量の商品の推薦、膨大なドキュメントの一括要約や検索といったことが、資金力の有無にかかわらずより多くの企業で可能になります。 

②高速化の進展も目覚ましいものがあります。例えば、1秒間にGPT-4 Turboの4倍に当たる100文字以上を生成するGemini (ジェミニ)1.5 FlashやClaude (クロード)3 Haiku、Llama 3などのモデルが登場しました。日本語にカスタマイズされたGPT-4が従来の3倍の処理速度を達成したことも話題になっています。 

また、Groq(グロック)という米国のハードウェアスタートアップは大規模言語モデル(LLM)の推論に特化したAIチップ“言語処理ユニット(LPU; Language Processing Unit)”を開発し、LLMの推論スピードを10倍以上高速化することに成功したと発表しています。このように生成AIモデル自体のみならず、ハードウェア側からの高速化も同時に進行しているのです。 

同時に、ユーザーインターフェース(操作性やデザイン)の③多様化も進んでいます。グーグルのGemini 1.5やオープンAIのSoraなど、文章だけでなく画像や音声、動画やプログラミングの組み合わせなど、複数タイプのデータを処理できるマルチモーダル生成AIを各社がリリースしています。 

生成AIアシスタントが実店舗で顧客の相談に応える 

ビジネスへの影響としては何が言えるかというと、リアルタイムでのデータ処理や即時応答が求められる「人間との対話」が必要な領域でも生成AI活用の余地が広がり、オペレーションがガラッと変わる世界がようやく見えてきました。 

すでに先進的な企業ではAIチャットボットによってカスタマーサービス業務を代替し、今年中にも4,000万ドルの利益改善を見込んでいます。こうした代替の流れが進むと、例えば店舗に設置された生成AIアシスタントが人間の店員のごとくリアルタイムで会話しながら、お客様の欲しい商品イメージや疑問点に、自社資料やインターネット検索の情報を組み合せ、図面やイラストも駆使して相談に乗れるようになるかもしれません。 

さらに進んで動画生成までリアルタイムで行えるようになれば、エンタメのパーソナライゼーション、例えば「ユーザーの反応や指示に基づいて即興的に映画を作り上げる」なんてことも可能になるかもしれません! 

今回は「①低価格化、②高速化、③多様化」という3つの観点から、現在のトレンドを紹介してみました。「このトレンドが続く場合、どのようなビジネスが花開くことになるのか?」という問いに“ひねり”の効いた答えがひらめいたのならば、それはチャンスかもしれませんよ。次回もお楽しみに、Catch you later!


高柳 慎一 写真

ボストン コンサルティング グループ
BCG X プリンシパルAIエンジニア
高柳 慎一
北海道大学理学部卒業。同大学大学院理学研究科修了。総合研究大学院大学複合科学研究科統計科学専攻博士課程修了。博士(統計科学)。株式会社リクルートコミュニケーションズ、LINE株式会社、株式会社ユーザベースなどを経て現在に至る。デジタル専門組織BCG Xにおける、生成AIを含むAIと統計科学のエキスパート。

  1. アプリケーション・プログラミング・インターフェース。システム同士の機能を共有する仕組み。 ↩︎