日本企業がつまずく組織のグローバル化 鍵は「ガバナンス設計」にあり

Vetoは、直訳すると「拒否権」で、クライアント企業に適用する際は最も議論を呼び起こすものだ。単純に言うと、いざというときに意思決定を止める権限を持つのが誰かを定めることである。これをOwnの上長だけでなく、横のレベルで持たせるかどうかの議論が、グローバルガバナンスを設計するうえで大変重要になる。

製薬企業の日本事業の今年度計画で、日本事業ヘッドの上長にあたるCEOがVetoを持つのは当然だ。しかし、例えば他地域や他機能からもVetoを行使できるようにすることで、地域や機能間で足並みをそろえることが可能になる。

地域を超えたVeto(拒否権)を設定する一例を示している。Own(実行責任者)はA地域事業ヘッドで、A地域事業ヘッドと直接的なレポートラインがないB地域事業ヘッドにVetoを持たせている。こうすることで、ある製品をA地域でいくらの価格帯で出したい、というOwnの提案に対し、B地域での販売に影響が出るので差し止めたいと拒否権を発動できる。レポートラインを超えて、地域間で足並みをそろえることが可能になる。

例えば、あるグローバル製品について、日本事業が単独で決めた価格で進めてしまうと他地域に影響が出るため、他地域事業ヘッドがVetoを持つ、といったケースが考えられる。ちなみにVetoという言葉はさすがに強すぎるのか、クライアント企業に適用する際は別の呼び方に変わることが多いのだが、根底にある考え方は変わらない。

2. 重要ポジションの職務記述書(Job descriptions)

ここも日本企業が弱いところである。グローバル人材は職務記述書の記載範囲に則って動くため、早急に整備する必要がある。少なくとも、重要なグローバルポジション(CEOや社長から数えて下2階層くらいをめど)については、先のOVISの定義と一緒に作成することが望ましい。具体的には、そのポジションの目的、責任範囲、具体的な職務内容、OVISを定義している場合はどの意思決定に対してOwnとVetoを持つのか、といった内容が盛り込まれる。

3. 会議体の設計(Committee structure/charter)

1、2を含め、意思決定が議論される場として多くは会議体に行きつくため、会議体の設計も同時に行う必要がある。Committee structureとは、グローバル経営会議を頂点に、どのような会議体がどのような関連性でその下に配置されるのか、主要会議体のつながりを示したものである。Committee charterとは、その一つひとつの会議体について、目的、扱う議題、議長、参加者、頻度、開催方法などの設計を示したものである。

以上3つの要素が設計されていれば、誤解を恐れずに申し上げると、究極的には「組織体制はどのような形でもよい」というのが私見である。もちろん、地域や機能をどう組織に落とし込むのかなど、組織設計自体にも重要な論点は多くある。ただ、それは正解のない世界で、それこそ今いる人材にどのようにポストを与えたいのか、といった企業固有の事情によっても変わる。そのため、どのような組織形態になろうともこの3要素を押さえて「組織内でどのように意思決定をしたいのか」を明記しておくことの重要性を、最後にもう一度強調したい。