【アースデー】玄米、ライ麦、オーツ麦…栄養を強化した全粒穀物で脱炭素促進

穀物は野菜や果物などと比べて、環境に与える影響がはるかに大きい。この環境負荷を軽減するヒントは、玄米やオーツ麦、ライ麦など「未精製」の穀物にある。BCGが発表したレポート「The Whole Truth About Whole Grains」では、ビタミンやミネラルを添加することで栄養成分を補填した「強化1全粒穀物」が、食料問題と環境問題の両方に対する有効な解決策になると指摘している。

穀物生産の温室効果ガス排出量は深刻

全粒穀物は「表皮・果皮」「胚芽」「胚乳」で構成され、それぞれにさまざまな成分が含まれている。しかし、私たちが今日食べている穀物の多くを占める精製穀物は、ビタミンやミネラルが豊富な胚芽と食物繊維を含む表皮を取り除き、炭水化物が主成分である胚乳のみが残ったものだ。そのような精製穀物は、糖尿病など、現代の食事に関連する疾患の大きな原因になっている。精製穀物の問題点は栄養だけではない。温室効果ガス排出量を1トン当たりで考えると肉の生産の方が多いものの、穀物は毎年大量に栽培されるため、重大な環境被害をもたらしている。

現在、世界では精製された小麦、米、トウモロコシなどの穀物が、他のどの食品よりも多く消費されている。特に低・中所得国では、穀物が消費カロリーの50%以上を占める。世界の穀物生産を原因とする温室効果ガス排出量は、ロシア、ブラジル、ドイツが出している排出量の合計よりも多い。

強化全粒穀物の普及が環境保全につながる

強化全粒穀物の現状を考えると、全粒穀物の消費量という点でも、栄養強化されている割合という点でも成長の余地が大きい。例えば、世界で生産される小麦のうち強化されている割合(強化小麦)は26%にすぎず、米ではわずか3%だ。また、精製されずに全粒の形で消費される割合は穀物全体の4分の1未満にとどまる。

レポートでは、環境面と栄養面で強化全粒穀物がもたらす利点を次のように紹介している。

  • 全粒穀物を栄養強化すると、同量の精製穀物と比較して6~7倍の栄養価になる。
  • 資源を追加することなく、人間用の食料を20%増やせる。
  • 少ない原材料で多くの栄養を提供でき、精製のプロセスも経ないため、温室効果ガス排出量、土地、水、肥料、農薬使用量は容積あたり20~25%低減、環境への負荷も栄養価あたり85~90%小さくなる。つまり、同程度の食料を生産するのにかかる温室効果ガス排出量が減り、必要な土地や水も少なくて済むため、環境フットプリントを軽減できる。
  • 生物多様性を促進し、森林破壊を防げる。肥料や殺虫剤など、生態系に被害を及ぼす化学合成農薬が少なく済むため、土壌と生態系の健康が改善される。必要な土地の面積も小さくなるため、森林伐採が減り、それに伴い生物の生息地や生物多様性の喪失が起きにくくなる。
  • 強化全粒穀物の導入率が世界で30%ポイント増加すれば、年間1億2000万トン(二酸化炭素換算)の温室効果ガス排出量の削減が見込める(図表)。
強化全粒穀物は脱炭素の有力な手段になりうる。現在、世界の強化全粒穀物の導入率は20%。50%まで増加した場合、年間で最大1億2000万トン(CO2換算)のGHGを削減できる。これは、自動車による排出量2600万台、航空産業による排出量の24%、商業ビルによる排出量の24%、石炭鉱業による排出量の12%、畜乳の生産による排出量の30%に相当する。

現在の食生活を、精製穀物から全粒穀物に完全に置き換えることは現実的ではない。また、強化全粒穀物への移行も徐々に行う必要がある。しかし、気候や自然への負荷を軽減し、気候変動に適応していく有効な手立てとして、検討の余地は大いにありそうだ。

調査レポート: The Whole Truth About Whole Grains(2024年3月)

  1. 栄養強化。食品にビタミンやミネラルなどの栄養素を添加・増加させること。 ↩︎