第1回 パーパスと経営との連携性――経営に活用できるパーパスを作るには?

例えば、音響機器メーカーB社が「徹底的な技術の追求で、一人ひとりの可能性を拡げる」というパーパスを構築したとする。オーディオ機器、映像機器、カメラなどを扱うオーディオ事業部の社員であれば、次のような問いが有効だろう。「オーディオ事業部が成長を続けていくためには、“どんな人に”、“どのオーディオ技術を”、“どのように”提供するべきか?その技術は、それを購入した顧客に“どのような可能性を”提供できるのか?」

この問いへの答え、つまりパーパスで提唱する「徹底的な技術の追求」「一人ひとりの可能性」に対応するものが具体的であればあるほど、B社の社員は自分がやるべきことと、やりたいことの接点を見つけやすくなるはずだ。その発見が、パーパスが社員の日々の業務で活用されるための第一歩になると同時に、社員がパーパスを自分ごととして実感できる端緒にもなる。

パーパスを経営のあらゆる領域に連携させる

優れたパーパスは、経営のあらゆる領域と密接に連携できる。ある企業で「クリエイティブなアイデアを追求することで、一人ひとりができることを増やし続ける」というパーパスを定義した場合、例えば次のような問いの立て方が可能になる。

  • ビジネス戦略: 「一人ひとりができることを増やし続ける」を実現できる事業領域はどこか?事業ポートフォリオはどうなるか?
  • ブランド・顧客体験: 「一人ひとりができることを増やし続ける」ことで、どのような価値を提供できるのか?その価値を顧客に実感してもらうには、どこでどのようなブランド体験を提供するべきか?
  • 組織と人材: 「クリエイティブなアイデアを追求する」「一人ひとりができることを増やし続ける」には、どのような組織体制を構築するべきか?どのような人材を雇うべきか?どのようなトレーニングが必要か?
  • 社会的インパクト: 「クリエイティブなアイデアを追求することで、一人ひとりができることを増やし続ける」企業として、自社らしい社会的貢献は何か?どの領域であれば自社らしく、ステークホルダーに提供価値を実感してもらえるか?

以上のように、パーパス構築前、構築途上、構築後と全プロセスにわたって取り組むべき重要なアクションがある。

こうして作り上げたパーパスをうまく活用しようと試行錯誤するなかで、パーパスの本質的可能性も見えてくる。つまり、パーパスと経営を着実につなげていくことで、企業は自社の進む方向性を社員に的確にコミュニケーションできるようになり、結果的に社員は自分の仕事と会社の方向性の融合点を見つけ、エンゲージメントが向上するきっかけをつかむようになる。パーパスは一度決めたら終わりではなく、それによって実現すべき価値をあらゆる角度から追求し続ける、永続的な取り組みなのである。