第1回 パーパスと経営との連携性――経営に活用できるパーパスを作るには?
例えば、住宅メーカーA社が「革新の追求で、社会に豊かさを」というパーパスを作ったとする。「革新の追求」はどの企業にも必要なことであり、A社らしい発想や態度とは言えない。「社会に豊かさを」という言葉からは、A社がこれからどんな事業領域に踏み込むのかを読み取ることは難しい。
どの企業にでも当てはまるパーパスでは、A社だからこそ提供できる顧客への価値が曖昧なため、住宅サービス事業の方向性を定めにくくなる。つまり何が起きるかというと、A社は将来的な事業成長基盤のあり方を明確に社員に伝えきれず、社員は自分の部署、そして自分自身が何にどう貢献するべきか悩み、それぞれの解釈でパーパスをとらえ始める。その結果、戦略に一貫性のない住宅サービスが好き勝手に出回ることになりかねない。これが、曖昧なパーパスがもたらす大きな戦略的リスクである。
社員の意見をいかに拾い上げるか
さて、構築を進めていくうえでは何が大切か。パーパスは役員だけのものではない。社長や役員が時間を掛けて考え抜いたパーパスであっても、「これが我が社のパーパスだ。これからはパーパスに基づいて行動してほしい」とトップダウンで説明した瞬間から、そのパーパスの本来の目的は無に帰する。冷めた社員がさらに冷めていく。
パーパスの先で成し遂げるべきことには、社員の強い協力と結束が不可欠だ。であるならば、彼らを最初から構築のプロセスに巻き込み、彼らの意見を聞くことが必要である。しかし何万人と社員がいる場合には、全員を巻き込むにも限界がある。その場合、例えば以下のような方法が考えられる。
- 次々世代の幹部候補をピックアップし、中心となって役員との議論を進めてもらう。この場合は誰が選ばれたかを公表し、彼らが現場社員の意見を取りまとめられるようにする。
- 社員が自由に書き込める社内ブログを社長直轄で運営、活用する。パーパス案に対して社員にコメントしてもらい、それをもとに意見の方向性をまとめて公表する。
- 役員が手分けして、各地域でタウンホールミーティング(経営陣と社員の対話集会)を実施し、社員の考えや、パーパスに込めたい思いを聴取する。
それぞれの企業に応じた最も実行可能な方法で、社員の意見を拾い上げる努力が必要になる。
作り上げたパーパスは、社員一人ひとりが日々の業務でそれを活用してこそ真価を発揮する。自分たちの部署はどんな役割を担うべきか、その部署の社員はどう貢献するべきかを社員自身が考えることで、パーパスは推進されていく。
では作った後に、どんな使い方が考えられるだろうか。